第二十二話 ゲルヒルデの過去

 

 ハクと合体し竜族となったリリシアとゲルヒルデは、その圧倒的な力でブリュンヒルデを徐々に追い詰めていく。そんな中、ブリュンヒルデの体内に蓄積された憎悪の魔力が暴走し、生きる物すべてに憎悪を抱く邪なる影(ダークネス・シャドウ)と化し、二人に襲い掛かる。どす黒い憎悪の力で野獣のごとき風貌と化したブリュンヒルデは、リリシアに飛び掛って身動きを封じた後、鋭い爪をリリシアの首に突きつけ、今にも魔姫の首を刎ねる態勢に入っていた。ブリュンヒルデの爪がリリシアの首を切り裂こうとした瞬間、魔姫は竜族の力である肉質硬化を使い。ブリュンヒルデの爪の一撃を防ぎ、二人の最大術をぶつけて無の魔力を生み出し、ブリュンヒルデを倒すことに成功したが、無の魔力が暴走したせいで古塔が崩落を始め、リリシアたちは塔の崩落に飲み込まれてしまった……。

 

 無の魔力の暴走の後、ブリュンヒルデとの戦いを終えた一行は瓦礫を払いのけて外に出た後、瓦礫の中から何者かの声が聞こえてきた。リリシアはその声の聞こえるほうへと向かい、瓦礫を払いのけると、そこにはブリュンヒルデの姿がそこにあった。無の魔力を受けたブリュンヒルデは正気を取り戻したのだが、体に眠る憎悪の力が再び目覚め再びリリシアたちへと襲い掛かる。ブリュンヒルデの心が白き王の持つ強大な竜の力に支配されていると睨んだハクは、神龍剣をゲルヒルデに託した瞬間、姉がこれ以上苦しむ姿を見ていられないゲルヒルデはブリュンヒルデの懐に入り、手に持った神龍剣で心臓を貫いた。最後の戦いを終えたリリシアたちは魔界に帰るべく、フリゲートに乗り込み魔界へと戻るのであった……。

 

 異次元の狭間での戦いから二日後、リリシアは再び魔界の王のための勉強に勤しんでいた。

「ふぅ……平和な日常が戻ってきたけど、勉強ばかりの忙しい毎日ですわ…。」

「リリシアよ、わがままばかり言ってはダメだ。君は立派な魔界の王なんだろう…。これからがんばって法律や魔道術の高等技術を覚えないとな…。おっと、もう休憩の時間だ…そろそろ召使いの二人が紅茶とお菓子を持ってくるはずだ。」

ガルフィスのその言葉の後、召使いのイレーナとルシーネが紅茶と菓子を持って書物庫へと現れる。

 「リリシア様、紅茶とお菓子を持ってまいりました。ガルフィス様も一緒にどうぞ……。」

テーブルに二人分の紅茶とお菓子を置いた後、召使いの二人は書物庫を去って行った。リリシアとガルフィスはテーブルに置かれたお菓子を食べながら、休憩に浸っていた。

「ふぅ…休憩している間に食べるお菓子は、今までの疲れを吹っ飛ばしてくれるわ。なぜかしらクッキーを食べた後は紅茶が欲しくなってしまうのよね…♪」

クッキーを食べた後、リリシアは紅茶を飲み口の中に残るクッキーの残りかすを喉の奥へと流し込む。

「うむ。クッキーも美味しいが、この紅茶も喉越しもよくいい味だ。そうだ、この紅茶はゲルヒルデが淹れてくれたものでな、昔より淹れ方がうまくなっているな。さて、休憩が終わったら法律の勉強の続きだ…。」

出された菓子と紅茶を飲み終えた後、リリシアは再び魔界の王のための勉強に励むのであった。

 

 リリシアが法律の勉強をしている一方、ゲルヒルデは寝室で王宮兵団と共に王宮内の身回りに出かけたディンゴを待っていた。

「そろそろ見回りを終えてディンちゃんが帰って来る頃ね……。帰ってくるディンちゃんのために、お菓子と紅茶を用意しなくっちゃね…。」

見回りから帰ってくるディンゴのために、ゲルヒルデは手作りのお菓子と紅茶をテーブルに置く。菓子と紅茶と用意してから数分後、王宮の見回りに行っていたディンゴが戻ってきた。

「見回りお疲れ様…。ディンちゃんのために、紅茶とお菓子を用意しておいたわよ♪」

「ありがとう。では早速いただくとするか……。」

見回りから帰ってきたディンゴは、テーブルに置かれたクッキーを食べた後、紅茶を口に含み喉の奥へと流し込む。

 「やはり君が作ってくれたクッキーはうまい味だな。紅茶もなかなかコクがあり、いい匂いで喉越しもいい。まさに最高の味だっ!!

テーブルに用意された菓子と紅茶を食べたディンゴは、万年の笑みを浮かべる。

「私の作ったお菓子と紅茶……気に入ってくれて嬉しいわ。私は少しエステイシアの町に買出しに行くのですが…ディンちゃんも一緒にどう?

「そうだな……俺も買出しに付き合うぜ。じゃあ、用意が出来たら宮下町の駅へと向かおう。」

ディンゴとゲルヒルデはエステイシアの町へと買出しに向かうべく、宮下町の駅へと向かうのであった……。

 

 「よし…今日の勉強はこれで終わりにしよう。明日は魔導術の高等技術の勉強と行こうか。」

魔界の王の勉強を終え、リリシアとガルフィスが書物庫を後にする。リリシアが窓を見た瞬間、外は暗闇に包まれていた。

「はぁ…もう夜か。一日中書物庫の中に居たから分からなかったわ。とりあえず夕食の時間がくるまで、少し寝室で休みましょう。」

勉強を終えたリリシアは寝室へと向かうなり、ベッドに寝転がって休息を始める。ベッドに横たわるリリシアは、書物庫から持ってきた魔道書である【竜脈の鼓動】を読み始める。

「何々…この書物には竜の力を持つ術の習得方法が記されているわね。大地の奥底に眠る竜脈の力を我が物にするには、魔力の波動を大地に放つことで共鳴させ、竜脈の力を呼び寄せることができる…か。今度こっそり試してみようかしら……。」

ページをめくるたびに、リリシアの頭の中に大地の奥底から竜脈の力を呼び寄せるための方法が刻み込まれていく。魔道書を読み終えたリリシアは書物庫に魔道書を直した後、夕食をとるべく大広間へと向かうことにした。

 「そろそろ夕食の時間か…。急いで大広間へと向かわないとね。」

夕食をとるべく大広間へと来たリリシアは、椅子に腰掛けてテーブルに出された料理を食べ始める。リリシアが食事を取る中、隣に座っているディンゴがリリシアに話しかける。

「リリシア、勉強はどうだ…。勉強に辛くなって、投げ出したりはしてないだろうな…。」

「し…失礼ねっ!私は決して投げ出したりはしないわ…。まぁ勉強といっても、魔界の法律や魔導術の勉強よ。明日は魔導術の高等技術の勉強をするってガルフィス様が言っていたわ。」

リリシアとディンゴが会話をしながら、テーブルに置かれた食べ物を口へと運んでいく。

「それにしてこのドラゴンステーキは旨い。王宮の料理人が腕を振るっているだけに、歯ごたえも良く蕩ける味だ。リリシア、お前も一口食べてみろ…。」

ディンゴに言われるがまま、リリシアは小さく切ったドラゴンステーキを口へと運ぶ。一切れのステーキを口へと含んだリリシアは、目を閉じてステーキの味を堪能する。

(噛めば噛むほど肉汁が溢れて……口の中に味が広がってくるみたいっ!!

ドラゴンステーキの味に、リリシアは笑顔の表情を浮かべる。しばらく口の中で味わった後、一切れのステーキを唾液と共に飲み込む。

「ディンゴの言うとおり、このドラゴンステーキはとても美味しい味ね。」

「そりゃそうだ。大型の飛竜の肉を使っているからな…。少し話が飛ぶが、この魔界では大型の飛竜による被害が多発し、多くの村や町が襲われている。今日の見回りで大型の飛竜を一匹発見したので、俺と王宮兵団たちで仕留めて王宮に持ち帰ったら、王宮の料理長がそいつをくれと言うから、鱗や皮を剥ぎ取った後で料理長に渡した結果がこのドラゴンステーキだ。」

その事実を聞いたリリシアは、驚きのあまり目が点になる。

 「し…白き王も倒したしブリュンヒルデも倒したのよっ!!もうこの魔界は平和なのよ…どうして魔物が王宮を襲ってくるのよ……。」

心配そうな表情でリリシアが口を開くと、その不安を吹き飛ばすかのような表情でディンゴが答える。

「リリシアよ、心配しなくてもいい。まぁ飛竜といっても、野生の魔物さ。何者かが王宮を襲うために放ったわけでもないから、万が一飛竜が王宮を襲ってきたときには、倒せばいいだけさ……。」

「大型の飛竜が野生の魔物と聞いてホッとしたわ……。これからこの辺に居る飛竜を倒して料理長の所に持ってくれば、美味しい料理が食べ放題だわ♪これからも飛竜の駆除よろしくねっ!!

そのリリシアの言葉に、ディンゴはあきれた表情でそう呟く。

「あのなぁ……飛竜はものすごく強く、俺一人では敵わない強敵なんだぞ。今日見たのは中型の飛竜だだから王宮兵団たちで太刀打ちできたが、大型になると恐ろしいほど強いんだぞっ!!とにかく、大型の飛竜を発見したときにはお前にも手伝ってもらうから覚悟しとけよっ!!

「仕方ないわねぇ…。要するに大型の飛竜が出たときには力を貸せばいいんでしょう。ま、私がいればどんな相手でも倒してやるわよっ!!じゃあ私はそろそろ風呂に入ってくるけど、覗いたら許さないんだからね…。」

ディンゴとの会話を終えたリリシアに、ゲルヒルデがリリシアの方へと駈け寄ってきた。夕食を終えた彼女は着替えを手に、今から浴場へと向かう途中であった。

「あの…リリシア様、私、今から浴場に行くのですが…一緒に風呂でもどうですか?

「ちょうど私も浴場に行く所よ。今から着替え持ってくるからちょっと待ってて…。」

そう言った後、リリシアは寝る為の着替えを取りに寝室へと急ぐ。しばらくして、着替えを持ったリリシアがゲルヒルデの前に現れる。

 「はぁはぁ…用意完了よ。さて、一緒に風呂に入りましょう…。」

寝る為の着替えを手に、リリシアとゲルヒルデは浴場へと向かっていった……。

 

 浴場へと来た二人は、湯船に浸かりながら会話を楽しんでいた。

「ふぅ…風呂に入ると一日の疲れが一気に吹き飛んだ感じがするわ。」

浴槽の中に溜まった温水が、一日の疲労を汗とともに流していく。湯船に浸かりすがすがしい表情を浮かべるリリシアに、ゲルヒルデがリリシアに話しかける。

「リリシア様…私がディンちゃんと会う前の頃の話、聞いてくれる?

「いつでもいいわ。話してちょうだい…。」

リリシアのその言葉の後、ゲルヒルデが静かに口を開き、昔の自分の事を話し始める。

 「私がディンちゃんと会う前はね……冷たい人だったの。無口で…魔導学園の中でもずっと独りだった。何もかもが嫌になり、自ら命を絶とうとした瞬間、あの人が現れたのです……。その人こそ魔導学園の下級生のディンちゃんだったのよ。」

ゲルヒルデの命を助けたのがディンゴだったことを知り、リリシアは驚きの表情で答える。

「まさかディンゴが……あいつもなかなかいい所あるのね…。それから先の続き…是非とも聞かせて!

「いいですわ。では私の過去の出来事をリリシア様に見せてあげましょう……。」

ゲルヒルデがリリシアの頭に手を当て、自らの過去の記憶をリリシアの脳へと送り込んでいく。

「あなたの脳に私の過去の記憶を送り込みました。では目を閉じてください…。」

ゲルヒルデに言われるがまま、リリシアは目を閉じる。魔姫が目を閉じた瞬間、ゲルヒルデの過去の記憶が暗闇の中で映し出されていく……。

 

 リリシアの目の前に…学校の屋上らしき風景が目に映る。その目の先には、今にも飛び降りそうな女が一人立っていた。

「ここに居ても…いい事なんて一つも無い……。ここからいますぐ消えてしまいたい……!!

後姿で良く分からないが、どうやらこの女こそが若き日のゲルヒルデであった。そんな中、何者かの足音が屋上にこだまする。

「ふぅ……今日も快晴だな。昼寝するのにもってこいのいい天気…ええっ!?

扉を開けて現れたのは、魔導学園生の頃のディンゴであった。彼は昼寝のために屋上を訪れたのであったが、ゲルヒルデの方を振り向いた瞬間、驚きの表情を浮かべる

 「あ…あいつは俺より二つ上のゲルヒルデじゃないか…。あいつ、様子がおかしい……このパターンなら飛び降りる可能性がある…急いで助けないとっ!!

ディンゴは急いで柵を上がり、急いでゲルヒルデのほうへと向かう。

「こ…来ないでっ!!私は…私はこの世界に居てはいけない人間なのよ…だから、私に構わないでっ!!

その言葉に放っておけないと感じたディンゴは、彼女を救う言葉を投げかける。

 「この世界に…居てはいけない人間なんて誰一人としていないっ!だから…君はここで死んではいけない!!

その言葉の後、ディンゴはゆっくりとゲルヒルデの方へと足を進める。そんなディンゴを拒絶するかのように、ゲルヒルデはディンゴを引き離そうとする。

「近づかないでっ…これ以上近づいたらここから飛び降り……きゃあっ!!

「危ないっ!!

その瞬間、ゲルヒルデの足が地面から離れる。ディンゴは咄嗟にゲルヒルデの手を掴むと、力いっぱい引き上げるべく、腕に力を込め始める。

「待ってろ…今俺が引き上げてやるからなっ!!うおおおおおっ!

その言葉の後、ディンゴは両腕に力を込めてゲルヒルデを引き上げることに成功した。ディンゴによって引き上げられたゲルヒルデは、悲しそうな目でディンゴを見つめ、そう言う。

 「どうしてっ!!どうして私を死なせてくれないのよっ!!私は、この世界では生きてはいけない人間なのよっ!だから…これ以上私の事に首を突っ込まないで!!

その言葉に怒りを感じたディンゴは、ゲルヒルデの頬に平手打ちを放つ。

「君がここで命を絶ってしまったら、後の人生を無駄にすることになるんだぞっ!!だから…もうこんなことはやめるんだっ!!今なら…まだやり直せるっ!

ディンゴがゲルヒルデの手を握った瞬間、彼女の放つ負のオーラを浄化していく。

「本当に信じていいの……あなたの事…。」

「大丈夫だ……俺を信じろ!!俺が君を変えてみせるっ!!

ディンゴの力強い言葉を聞いたゲルヒルデは、嬉しさのあまり涙がこみ上げてくる。

 「ぐすっ……私を慰めてくれる人がいたなんて…ううっ……。」

ディンゴは泣きつかれて眠っているゲルヒルデを背負うと、急いで屋上を後にする。

「よし。今から俺が保健室に連れて行ってやるからな…。」

ゲルヒルデを背負いながら保健室に来たディンゴは、彼女をベッドに寝かせた後、急いで教室へと戻って行く。魔導学園での一日の授業が終わり、再び保健室にディンゴが現れる。

 

 「おっ、お目覚めのようだな。授業が終わったから、一緒に帰ろうか……。」

ディンゴが一緒に帰るように言うと、ゲルヒルデはベッドから降り、さっきまでの暗い表情が嘘のような笑顔でディンゴに答える。

「じゃあ…あなたの家まで送ってくれないかな。いっぱいあなたと話したいからね。」

「わかった。では一緒に帰ろうか…。俺も君の事、いろいろと知りたいからな。」

保健室を後にしたディンゴは、ゲルヒルデと手をつなぎながらディンゴの家へと向けて足を進める。ディンゴの家付近まで差し掛かった時、ディンゴが自分の家の事をゲルヒルデに紹介する。

 「ここが俺の家だ。俺の親父は鍛冶屋をやってるんだ。魔物と戦うための武器や防具を作っているんだぜ。さぁ、入りなよ…。」

ディンゴが扉を開くと、ゲルヒルデを家の中へと招き入れる。

「お…お邪魔します。」

ゲルヒルデは靴を脱ぎ、恐る恐るディンゴの家の中へと入る。どうやら彼女は他人の家に上がるのは初めてのようで、少し緊張していた。

「紅茶とお菓子を用意してくるから、しばらく俺の部屋で待っていてくれ。少しごちゃごちゃしてるけど、ゆっくりしていってくれ…。」

ゲルヒルデを自分の部屋へと招き入れた後、ディンゴはお茶とお菓子を用意するべく、台所へと向かっていった。部屋で待つようにと言われたゲルヒルデは、近くにあった科学の本を読み始める。

「あの人、機械とかに興味あるんだ……。」

ゲルヒルデが科学の本を読み始めてから数分後、二人分の紅茶とお菓子を手にディンゴが部屋へと現れる。

「紅茶とお菓子を用意したぜ。さぁ、一緒に食べようか…。」

ゲルヒルデはディンゴが持ってきたお菓子を口に含むと、嬉しそうな表情でそれを食べ始める。

 「おっと…自己紹介が遅れたな。俺の名前はディンゴって言うんだ。魔導学園で科学部に所属しているんだ。そうだ、君がいま読んでいる本も、科学に関する資料だ。」

ディンゴが自己紹介を終えると、ゲルヒルデは紅茶を飲み、口の中に残るお菓子の残りかすを喉の奥へと流し込んだ後、自分の事を話し始める。

「私の名は、ゲルヒルデといいます。魔導学園では君より上の学年よ。私があなたと出会う前は……この世界から一刻も早く消えたいと思ったわ。でも今は違う…もう心を閉ざしていた私はもう居ない。今は、明るく前を向いて生きていこうと決意したの…。」

ゲルヒルデの心の変化に、ディンゴは嬉しそうな表情でゲルヒルデの手を握る。

「ぐすっ……嬉しいぜ…俺は今…君が笑顔の表情になってくれて、本当に嬉しいぜ!!

嬉し涙を浮かべるディンゴに、ゲルヒルデは鞄の中からハンカチを取り出し、ディンゴに手渡す。

 「ほら…これで涙を拭いて♪私、この瞬間からあなたの事が好きになってしまったみたいなの。だから…今日からあなたの事、ディンちゃんって呼んでいい…?

ゲルヒルデのその言葉に、ディンゴは頬を赤くしながら答える。

「ディンちゃん…か。そう言われると恥ずかしいけど、その愛称で呼んでいいぜ。俺も君の事が好きになった。まずは友達から初めていいかな…。」

ディンゴがゲルヒルデの事が好きだと伝えた後、彼女はディンゴの手を強く握りしめながら答える。

「うふふっ♪私、今とてもすごく嬉しいわ…。あっ…もうそろそろ夜になりそうだから、私そろそろ帰るわね…。今日はいろいろとありがとう…また学園で会いましょう!!

ゲルヒルデのその言葉の後、リリシアの目に写っていたゲルヒルデの過去の一部分の映像が消えていった……。

 

 ゲルヒルデの過去の映像を見たリリシアは、感動のあまり目から涙が零れていた。魔姫は目を擦りながら、ゲルヒルデの下へと近づき、そう言う。

「あなたの過去、見させていただきましたわ。あれほど冷たかったあなたを変えてくれたのがディンゴだったなんて……。そのことを知った瞬間びっくりしたわ…。」

リリシアの言葉の後、ゲルヒルデは笑顔の表情でそう呟く。

「あの時ディンちゃんが助けてくれたおかげで、氷のように冷たかった私は変われた……。だから…ディンちゃんは私の恋人でもあり、とても大事な宝物でもあるのよ……。さて、体も温まったことだし、そろそろ上がりましょう。」

二人は濡れた体を拭いた後、寝る為の服装に着替え始める。リリシアよりも先に着替えを終えたゲルヒルデは、リリシアにそう告げた後、浴場を去る。

 「リリシア様…。今日は私の話を聞いてくれてありがとう…。ではお先に失礼っ!!

ゲルヒルデが浴場を去った後、リリシアは慌てた表情でゲルヒルデの後を追う。

「しまった…先を越されたかっ!!ならばここから寝室へと向かってやるわよ。」

リリシアは一旦王宮の外に出ると、背中に漆黒の翼を広げて寝室の窓の方へと飛び上がる。翼を大きく羽ばたかせて寝室の窓の方へと近づき、窓を開けて寝室の中へと入る。

「ど…何処から入ってくるんだよ……。」

突然窓から現れたリリシアを見た瞬間、ディンゴは驚きの表情を浮かべる。その数分後、ゲルヒルデが寝室へと到着する。

 「リリシア様…意外と早いのね。」

ゲルヒルデのその言葉の後、リリシアはベッドに寝転がりながらゲルヒルデにこう答える。

「まぁね…私は魔界の王だからね。さて、今日はもう寝るわよ。勉強でかなり精神的にも疲れたからね…。ゲルヒルデ、電気消してちょうだい。」

リリシアの言葉を聞いたゲルヒルデは、電気を消した後ベッドに寝転がり、ディンゴに寄り添いながら眠りにつく。勉強の一日が終わり、リリシアたちは眠りにつくのであった…。

 

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