第二十話 爆誕!!二人の竜姫

 

 異次元の狭間へと消えたブリュンヒルデを追うべく、リリシアたちは魔界製フリゲートに乗り込み、空間の裂け目から異次元の狭間へと突入することに成功した。浮遊大陸にフリゲートを停泊させた後、リリシアたちはブリュンヒルデの魔力を頼りに、廃墟と化した遺跡の中に聳え立つ古塔へと足を踏み入れた。最上階に到達したその時、そこには竜族(ドラグネイル)と化したブリュンヒルデがそこにいた。長き戦いの末、怒れる紅白龍と化したブリュンヒルデの変幻自在の攻撃に苦戦しながらも、リリシアと仲間たちは頭に生える四本の角を折り、ブリュンヒルデを倒すことに成功した。戦いを終え、一行は魔界に帰ろうとしたその時、死んだはずのブリュンヒルデが黒き六枚の翼を生やした破壊と憎悪の女神となり、リリシアたちへと襲い掛かるのであった……。

 

 リリシアたちが武器を構え戦闘態勢に入った瞬間、翼を羽ばたかせ宙に浮かぶブリュンヒルデは不敵な笑みを浮かべながら、術の詠唱に入る。

「フフフ…まずは私から先に行かせてもらいますわ……セラフィック・リングっ!!

詠唱の後、ブリュンヒルデの周囲に光の輪が形成され、スピードを上げてリリシアの方へと向かってくる。リリシアは飛んでくる光の輪を手に持った鉄扇で弾いた後、翼を広げて宙へと舞い上がる。

「なかなかやるじゃない…リリシアぁ……♪」

「あいにく…こんな術にやられるほど、私は甘くないのよ…。ブリュンヒルデ…私はここで貴様を……地獄に葬って差し上げますわっ!!

ブリュンヒルデの方に鉄扇を突きつけたあと、リリシアはブリュンヒルデを攻撃すべく、赤き炎の力を解放し、術の詠唱を始める。

 「赤き炎よ…燃え上がる炎の竜巻となって対象を焼き尽くさんっ!!フレイム・トルネードっ!!

リリシアが術の詠唱を終えた瞬間、リリシアの手のひらから螺旋状の炎が放たれる。リリシアの放った炎の竜巻がブリュンヒルデの間近にまで迫ったその時、炎の竜巻が一瞬にしてかき消される。

「そ…そんな!!

「破壊と憎悪の女神となった私には、あなたの赤き炎の術など喰らわないわよ…。葬り去られるのは……貴様のほうよ…リリシアァッ!!!

黒き翼を広げ、ブリュンヒルデはリリシアへの憎悪の力を翼に集め始める。

「リリシアさえいなければ……私は魔王になれたっ!!フェルスティア七大魔王となって…下賎な人間共に地獄を見せてやるはずだった……しかしあなたの存在で、私の夢は一瞬にして砕け散ったのよっ!!

その言い放った後、翼に溜めた憎悪の力が徐々に魔界王の杖へと流れ込んでいく。

 「さぁリリシア……仲間たちの目の前で葬り去ってあげるわぁ♪ダークネス・ホールッ!!

ブリュンヒルデは杖に流れ込んだ憎悪の力を放った瞬間、全てを消し去る邪悪な闇の球体となってゆっくりとリリシアの方へと向かっていく。リリシアはその場から離れようとするが、闇の球体に徐々に引き寄せられていく。

「か…体が……闇の球体の方へと引き寄せられていく……!!

「リリシアっ、あの球体に吸い込まれたら最期、生きては戻れなくなるぞっ!!ここは俺が助けてやるから…全速力で反対側へと走るんだっ!!風翔銃(ウインド・ブレット)!!

リリシアを少しでも闇の球体から離させるべく、ディンゴは風の弾丸をリリシアに向けて放つ。しかしディンゴの放った風の弾丸は、リリシアに命中する前に闇の球体に吸い込まれる。

 「フフフッ……リリシアを葬った後…あなたたちもちゃんとリリシアの所に送ってあげるわ…。」

ブリュンヒルデが仲間たちにそう呟いた後、闇の球体がリリシアの背後へと忍び寄る。壁際に追い込まれた魔姫に、もう逃げ場はない。

「きゃああああぁっ!!

その悲鳴の後、リリシアの体が混沌の闇へと吸い込まれていく。ブリュンヒルデがパチンッ―と指を鳴らした瞬間、闇の球体はリリシアと共に消え去っていった……。

 

 「う……嘘だろっ!?

リリシアが闇へと葬られたという事実に、ディンゴはその光景に脱帽していた。

「さぁ…次は誰を混沌の闇へと葬ってあげようかなぁ♪」

不気味な笑みを浮かべながら、ブリュンヒルデは徐々に仲間たちの方へと近づいてくる。ディンゴは再びボウガンを構え、仲間たちにそう言う。

「みんな……戦うぞ。リリシアがいない今、俺たちが戦わなくてはならないんだっ!!

ディンゴの言葉で、仲間たちは再び武器を手に、ブリュンヒルデに立ち向かっていく。

「無駄なことを……。ならばあなたたちを完膚なきまでに痛めつけた後、混沌の闇へと葬って差し上げますわっ!!

黒き翼を羽ばたかせながら、ブリュンヒルデは魔界王の杖を構えながら中へと舞い上がる。

 「よくも……よくもリリシア様をっ…!!許さない…リリシア様を闇にに葬ったお姉様だけはっ!!

リリシアを葬り去られたことに怒りを感じたゲルヒルデは、魔導書を片手に術を放つ態勢に入る。術の詠唱に入ろうとしたその時、ゲルヒルデの持っている魔導書が光り輝きだす。

「わ…私の魔導書に……新たな術が浮かび上がっているわっ!!なんだか…私の頭の中に言葉が入ってくるみたい!!

新たな術を唱えるべく、ゲルヒルデは魔導書に書かれている言葉を読み始める。

「輝ける無数の光よ……今こそその力を解き放たんっ!!!シャイニング・ブラスティアッ!

詠唱を終えたゲルヒルデが両手を天にかざした瞬間、手のひらに光の魔力が集まってくる。ゲルヒルデが手のひらに集まった光の魔力を解放した瞬間、凄まじい光の大爆発が巻き起こる。

 「ぐっ……これしきの術でこの私に傷をっ!!

ゲルヒルデの光の上級術を受けたブリュンヒルデは、爆風で大きく吹き飛ばされる。ブリュンヒルデは再び翼を羽ばたかせ上空に舞い上がろうとした瞬間、翼に違和感を感じる。

「先ほどの光の爆発で……翼が二枚ほど折れてしまったか…。まぁよい、翼が無くとも奴らを葬りさるだけの力は私にはあるっ!!

再び態勢を立て直したブリュンヒルデは、怒りの感情を露にしながらこちらの方へと向かってくる。仲間たちは武器を構え、ブリュンヒルデを迎えうつ。

「ゲルヒルデのおかげで、攻撃のチャンスが増えたっ!こんどは俺たちが攻撃を仕掛ける!

「さて…リリシアの仇でも取らせてもらうよ。貴様だけはこの脇差で切り捨ててくれるっ!!

ディンゴとガルフィスが武器を構え、ブリュンヒルデの方に走り出す。ガルフィスはブリュンヒルデの懐まで移動した後、目にも留まらぬ抜刀術を繰り出す。

 「わが抜刀術…受けてみよっ!!

気合と共に脇差の鞘を引き抜いた瞬間、光速の斬撃がブリュンヒルデの体を切り裂いていく。しかし、目には見えないほどの斬撃を受けたのにもかかわらず、ブリュンヒルデは無傷であった。

「な…何ということだっ!!私の抜刀術を受けてなお無傷でいられるとはっ!?

ガルフィスの斬撃が放たれる前に、ブリュンヒルデは闇の力のオーラを纏いガルフィスの抜刀術を無力化していた。

「フフッ…あなたたちの攻撃など、私には通用しないわよ…♪さぁ、次は私の番よ……。セラフィック・リングッ!!

ブリュンヒルデの周囲に光の輪が現れ、スピードを上げてガルフィスを狙ってくる。ガルフィスは光の輪を弾き返すべく、居合いの構えをとる。

「我が脇差で…貴様の光の輪を弾き返して見せよう……居合いの構えっ!!

ガルフィスを狙う光の輪が、ガルフィスの首めがけて向かってくる。光の輪がガルフィスの目の前まで来た瞬間、鞘から脇差を抜き光の輪を弾き返す。

 「私のセラフィック・リングを弾き返すとはなかなかの腕前ね…なら、これならどうかしらっ!!

ガルフィスが弾き返した光の輪は、再びガルフィスを狙ってくる。光の輪はガルフィスの頭上で二つに分かれた後、ガルフィスの頭上を飛び回る。

「……切り裂けっ!!

ブリュンヒルデのその言葉の後、ガルフィスの頭上を飛び回る光の輪が速度を上げてガルフィスの方へと向かってくる。ガルフィスは咄嗟に脇差を盾に防御の態勢を取るが、防御が破られ光の輪に切り裂かれる。

 「うぐっ…魔皇帝である私がここまで追い詰められるとは……ディンゴ、後は…頼んだぞ……。」

光の輪の一撃を受けたガルフィスはディンゴにそう言い残した後、傷つきその場に倒れる。ゲルヒルデは治癒の術を唱えてガルフィスの傷を回復させた後、金騎士の下へと避難させる。

「ガルフィス様…ここで休んでください。後は私とディンちゃんで何とかします!!

ゲルヒルデは魔導書を片手に、ディンゴの方へと走ろうとしたその時、一瞬だがリリシアの気配を感じたような気がしたのか、足を止めて立ち止まる。

「今一瞬リリシア様の気配を感じた……だとしたら…リリシア様はきっと生きているわ!!

そう呟いた瞬間、何者かがゲルヒルデの心の中に語りかけてくる。

(あなたの持つ光の魔力を……天にぶつけてっ!!

何者かに言われるがまま、ゲルヒルデは天に手をかざし、光の魔力を天に向かって放つ。すると空間の裂け目が現れ、その裂け目から何者かの手が現れる。

 「その赤い手袋は……まさか…リリシア様ではっ!!

その言葉の後、何者かの手が空間の裂け目を徐々に広げていく。大きく広がった空間の裂け目から、翼を生やしたリリシアがゲルヒルデの前に舞い降りる。

「助かったわゲルヒルデ。私の心の声……聞こえていたのね。」

「ええ。リリシア様の心の声、確かに私の心に聞こえていましたわ。さぁ、私と一緒にお姉様を倒すため…共に戦いましょう!!

二人が戦いの場へと戻ろうとしたその時、ハクが目の前に現れ、そう言う。

 「無事で戻って来てくれたか…リリシア殿……破壊と憎悪の女神と化したブリュンヒルデは強い…。あれほどの強さを持つガルフィス様がやられてしまうほどだ…。そこで一つ私から提案がある。私の力の半分を君たちに分け与え、竜族(ドラグネイル)となることで互角に戦えるのだが……それでもよいか?

その言葉を聞いた二人は、真剣な眼差しでハクのほうを向き、答える。

「分かったわ…じゃあ早速合体に移りましょう。」

「リリシア様……この戦いが終わったら元の姿に戻れるかな…。戻れなかったらどうしよう……。」

不安げな表情でゲルヒルデがそう言った後、ハクが手を握りながら答える。

「大丈夫だ。戦いが終われば元の姿に戻れる……何もそこまで心配することは無い。さぁ、合体の準備に取り掛かろう。リリシア殿、ゲルヒルデ殿…私の手を握ってくれ…。」

リリシアとゲルヒルデがハクの手をぎゅっと握り締めた瞬間、竜族の力が握った手を伝って体内へと流れ込む。竜族の力が流れ込むたび、二人の体が徐々に竜に近い体つきとなっていく。

 「な…何が起こっているのっ!?体がだんだん熱くなって力が溢れてくるわっ!!

合体の経験が無いゲルヒルデは、体の奥底から力が溢れてくる事を感じていた。竜族の力が流れてくるたびに気持ちが昂り、紅き雷をその身にまとい始める。

「さぁ…その新たな力でブリュンヒルデを止めるのです……。大丈夫…私の力を分け与えた君達になら絶対勝てるっ!

その言葉の後、ハクの体が光の球体となり、二人の体の中に入っていく。竜族となったリリシアとゲルヒルデは、急いで戦いの場へと向かって行った……。

 

 二人が戦いの場へと向かっている中、ディンゴは一人ブリュンヒルデと戦っていた。ディンゴはボウガンに雷の魔力を持つ弾丸である雷光弾を装填すると、すぐさま引き金を引く態勢に入る。しかし背後から光の輪の気配を感じたのか、ディンゴは回避の態勢に入る。

「くっ……今度は後ろから光の輪が襲ってきたぜ。避けても避けてもしつこく俺を追ってきやがる…。」

背後から飛んでくる光の輪を避けながら、ディンゴは急いで物陰に隠れてブリュンヒルデに照準を合わせる。ここなら光の輪の直撃を受けずに確実に対象を狙撃することが出来る格好の場であった。

「ここにいれば光の輪が俺を襲ってきても引っかかるだけで俺は無傷……となると、邪魔を受けずに狙撃できるっ!!

ディンゴはスコープを覗き込み、ブリュンヒルデの翼に命中させるべく、精神を研ぎ澄ませながら引き金を引く。引き金が引かれた瞬間、一筋の雷光がブリュンヒルデの翼を貫き、一枚の翼が地面に落ちる。

 「うぐっ……貴様…光の輪の直撃を唯一受けない物陰に隠れて私を狙撃するとは…許さん…許さんぞぉっ!!!

ブリュンヒルデが怒りの咆哮を上げた瞬間、翼から混沌の風が巻き起こり、あらゆる物をすべて吹き飛ばしていく。障害物がなくなったことで、物陰に隠れていたディンゴの姿が露になる。

「ちくしょう…せっかく光の輪が届かない安全地帯に隠れてお前を狙撃しようと思ったのに……。まぁいい、隠れる場所が無くなったが、負けるわけには行かないっ!!

「貴様だけは……貴様だけはここで終わりにしてやるわぁっ!!

怒りの表情を浮かべるブリュンヒルデは、手のひらに憎悪のエネルギーを集め始める。手のひらに集まった憎悪の力は徐々に大きなエネルギーの塊となり、ディンゴに襲い掛かろうとしていた。

 「ゴミめ……跡形も無く消えて無くなれぇっ!!

黒く禍々しい憎悪のエネルギーの塊が、ディンゴに向けて放たれる。ディンゴはブリュンヒルデの放った黒いエネルギーの塊を相殺すべく、ボウガンを構えて魔力蓄積装置に溜まっている光の魔力を最大出力で放つ。

「ま…負けるかぁっ!!それなら光の魔力を最大出力で放ち……相殺してやるっ!!

引き金を引いた瞬間、波動砲のごとく光の波動がボウガンの発射口から放たれる。しかしブリュンヒルデの強い憎悪の力には敵わず、光の波動がかき消される。

「も…もうダメだ……うわ…あぁっ…。」

恐怖のあまり、ディンゴは足が震えて逃げることすらできない状態であった。憎悪のエネルギーの塊がディンゴの目の前まで迫ってきたその時、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

 「ディンちゃんは…私が守るっ!!

その声と共に、手のひらから光の波動が放たれ、憎悪のエネルギーの塊を相殺する。ディンゴが後ろに振り返った瞬間、そこにはハクと合体し、竜族と化したリリシアとゲルヒルデがそこにいた。

「た…助かった……。その姿は…まさかゲルヒルデもハクと合体し、竜族となったのか。」

「そうよ…。お姉様を止めるために……ハクと合体してこの力を手に入れたのよ。ディンちゃん…後はお姉さんとリリシア様に…お・ま・か・せっ♪」

ゲルヒルデは軽く指を振りながらそう言った後、ディンゴを安全な場所へと移動させると、リリシアと共にブリュンヒルデの下へと向かう。

 「魔界と人間界を……あなたの好きにはさせないっ!

二人の言葉の後、ブリュンヒルデはどす黒い憎悪の炎を纏わせながら二人の下へと近づいてくる。

「魔王の座を奪った忌まわしき存在であるリリシア…そして我が妹君であるゲルヒルデよ。話は尽きた…。今ここで貴様の存在を消してやるッ!!

ブリュンヒルデは再び六枚の黒き翼を生やし、リリシアたちを威圧する。魔界、そしてフェルスティアを救うべく、竜族となったリリシアとゲルヒルデが最後の戦いに挑む!!

 

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