第十八話 叛逆の白薔薇

 

 ゲルヒルデの治癒術によって再び戦えるようになったリリシアは、祖なる龍と化した白き王を倒すべく仲間たちと共に戦っていた。リリシアたちを葬るべく、白き王は再び見晴らしの塔に座し、祖なる雷を放ちリリシアたちに襲いかかるが、ゲルヒルデの防壁の術によって防ぎ、稲妻の直撃を免れることができた。稲妻の雨が止んだ後、リリシアたちが一斉攻撃を加えた後、白き王の肉質が鋼のごとく硬化し、何者も受け付けなくなってしまった。金騎士が時間稼ぎをしている間、白竜族の戦士であるハクが一つの秘策を思いついた。それはハクとリリシアが合体し、竜族(ドラグネイル)となって白き王と戦うという作戦であった。リリシアは白き王を倒すため、ハクと合体し白銀の竜魔姫となって仲間たちと共に白き王に立ち向かうのであった……。

 

 竜族と化したリリシアは体に紅き雷を纏いながら六枚の白き翼を広げ、白き王の唯一弱点ともいえる頭部へと舞い上がり、拳に紅き雷を纏わせる。

「竜族の力を得た私の力……受けてみるがいいっ!!

紅き雷を纏った魔姫の拳が、白き王の角に炸裂する。拳の一撃によって白き王の角が折れ、雷を放ちながら地面へと落ちていく。

「ぐっ…ぐおおおおぉぉっ!!

角を折られ、白き王は痛さのあまり怯む。ディンゴはその隙に爆弾の設置に取り掛かる。

 「よしっ…設置完了だ。ゲルヒルデ、俺が離れたら術で爆弾を起爆してくれっ!!

白き王の足元に爆弾を設置した後、ディンゴはその場から離れる。ディンゴが離れた後、ゲルヒルデは術離れた場所から爆弾を起爆させるべく、魔導書を片手に詠唱を始める。

「天より降り注ぎし隕石の欠片よ……悪しき者に裁きを与えよっ!!メテオ・フォールっ!!

詠唱を終えた瞬間、天より隕石の欠片が白き王の足元に設置した爆弾のほうへと落下する。隕石の欠片は爆弾に命中し、大きな爆発が巻き起こる。

「よしっ!!起爆成功だ。ゲルヒルデ、攻撃はリリシアに任せておいて、俺たちは再び爆弾作りに取り掛かろう…。」

白き王への攻撃をリリシアに任せ、ディンゴは再びゲルヒルデと共に爆弾作りに取り掛かることにした。二人が爆弾を作っている間、リリシアは白き王の攻撃をかわしながら、攻撃する隙をうかがっていた。

 「ええいっ!!こしゃくなマネをっ!!

白き王は雷を纏った腕を振り下ろし、リリシアを攻撃する。しかし魔姫の素早い動きに撹乱され、狙いが定まらない。

「奴が空振りした隙に……強い一撃を打ち込むっ!!

リリシアは竜の力が加わった紅き鉄扇を構え、甲殻がはがれた白き王の胸部を斬りつける。肉質が硬化した白き王の胸部に、僅かだがかすり傷が出来る。

「くっ……肉質硬化という厄介な能力のおかげで、鉄扇で斬りつけてもかすり傷程度しかダメージを与えられないわね…。奴の角は三本折った…後は術でダメージを与えれば勝てる…。」

白き王から離れ、リリシアは体に赤きと竜族の力を集め、術を放つ態勢に入る。その頃、二人が作っていた爆弾が完成し、設置の準備に入っていた。

「爆弾が完成したのねっ!!私が術で奴にダメージを与えて怯ませた後、設置をお願いっ!!

爆弾設置の隙を作るべく、リリシアはその身に紅き雷を纏わせ、詠唱を始める。

 「紅き雷よ、我に力をっ!!アンセスター・チャージッ!!

詠唱の後、リリシアの手のひらに紅き雷が集まってくる。紅き雷の力が十分に溜まったことを確認すると、リリシアは手のひらを白き王のほうへと突き出す。

「十分溜まったみたいね……その溜まった紅き雷の力を一点に集中させ、一気に放つッ!!

リリシアは先ほどの術で溜まった紅き雷の力を一点に集中させ、白き王に向けて放つ。魔姫の体内に溜め込まれた強烈な紅き雷が、肉質が硬化した白き王の皮膚を貫く。

「グオオオォッ!!なぜだ…なぜだぁっ!!貴様の術が肉質硬化している私の体を貫くとは……。」

リリシアの放った紅き雷の光線によって体を貫かれた白き王は、激痛のあまり怯んで動けない状態であった。ディンゴはその隙に白き王の足元に爆弾を仕掛け、ゲルヒルデに起爆を要請する。

「爆弾設置完了。急いでその場から離れるから、起爆よろしくっ!!

「わかったわっ!!今からメテオ・フォールで起爆させるわ。」

爆弾を設置した後、ディンゴは急いでその場を離れた後、ゲルヒルデが術の詠唱を始める。

 「天より降り注ぎし隕石の欠片よ……悪しき者に裁きを与えよっ!!メテオ・フォールっ!!

天より降り注ぐ隕石の欠片が、ディンゴが設置した爆弾に命中し、砂煙を巻き上げながら爆発する。爆弾の一撃が白き王に炸裂した瞬間、白き王の硬質化した体が徐々に軟化していく。

「なっ…なんだとぉっ!!私の肉質が……徐々に戻っていく!!

瀕死の状態に陥ったのか、白き王の肉質硬化が解除され、武器での攻撃が通るようになった。リリシアは仲間たちを集め、白き王の足元に総攻撃を仕掛ける。

 「みんな、肉質硬化が解けたから、思いっきりやっちゃってちょうだいっ!!

肉質硬化が解除された白き王に、武器を構えた仲間たちが次々と攻撃を仕掛けていく。仲間たちが足を攻撃している間、リリシアは鉄扇を構えて頭部の角に攻撃を仕掛ける。

「厄介な肉質硬化が解除された今……貴様はもう負ける運命にあるのよっ!!

リリシアの鉄扇の一撃により、白き王の最後の角を斬り飛ばす。頭に生えた四本の角をすべて折られたことにより、白き王の体を纏っていた紅き雷が消え、力が徐々に鵜弱まっていく。

「くそぉっ……私の力が弱まっていく…。おのれ…リリシアめぇっ!!

目を紅く光らせて怒りに燃える白き王が、牙を剥き出しにしながらリリシアを睨み付ける。しかしそれに動じない魔姫は、とどめの一撃を食らわせるべく紅き雷の力を集めていた。

「この一撃ですべて終わりにして差し上げますわっ!!アンセスター・ボルテージッ!!

リリシアは体に大きく力を込め、凄まじいほどの紅き雷の力を放電する。放電された紅き雷は白き王の体を焼き尽くした後、天へと昇っていく。

 「お…おのれ……!!リリシアめ…私は…再び蘇り必ずこの魔界を我が物に……ぐふっ!

その最後の言葉の後、白き王の巨体が地面に崩れ落ちる。白き王が完全に動かなくなった瞬間、リリシアたちは勝鬨の声を上げる。

「これで…魔界に再び平和が戻ってくるわね。」

「まさか……私たちが本当に白き王を倒してしまうとは……。」

白き王との戦いを終えた後、リリシアの合体が解除され、ハクが疲れた様子でリリシアたちの前に現れる。

「ふぅ…合体という物は疲れるものだ…。しかし、戦う相手が強ければ強いほど、勝利の喜びも格別だな…。と…とりあえず少し休ませてくれ……。」

合体で体力を使い果たしたハクは、その場に寝転がり眠りにつく。白き王との戦いを終えて疲れ果てたリリシアたちは、疲れを癒すため王宮へと戻っていった。

 

 リリシアたちが休息を取っている中、棺に巻かれている光の鎖が解け、ブリュンヒルデが目を擦りながら棺の中から現れる。

「ゲルヒルデのせいで足止めを喰らってしまったわ…。早く戻ってリリシアを葬りさ…し…白き王様っ!?

ブリュンヒルデの目の前に、頭に生えた角がすべて折られ、無惨な姿で倒れている白き王の姿が目に映る。ブリュンヒルデが白き王のもとに駆けつけた時、息絶えたはずの白き王がブリュンヒルデに何かを訴えかけるかのような目で見つめてくる。

 「ブ…ブリュンヒルデ……早く私の傷を回復してくれ……リリシアを…リリシアをこの手で葬り去らなければこの私の怒りはおさまらんっ!!

リリシアたちとの戦いで受けた傷を回復するべく、白き王はブリュンヒルデにそう訴えかける。

「悪いけど…あなたはもう用済みよ……。」

その言葉の後、ブリュンヒルデは手のひらを天にかざし、強く念じ始める。ブリュンヒルデが強く念じた瞬間、空中に大きな火球が現れる。

「わ…私を裏切る気かっ!?

「そうよ…白き王様。リリシアに負けた時点でもう役目は終わったのよ。残念だけど…ここで消えてもらうわよぉ…♪」

ブリュンヒルデが腕を振り下ろした瞬間、燃え盛る大きな火球が白き王の体を跡形も無く焼き尽くす。

 「ぐわあぁーーーーーーッ!!!

大火球が白き王を焼き尽くした後、ブリュンヒルデの手のひらに青白い光が集まってくる。青白い光はブリュンヒルデの手のひらに触れた瞬間、手のひらの中に吸い込まれていく。

「フフフッ……この力が欲しかったのよ……力が溢れてくるようだわっ!!

白き王の力が体に流れるたび、ブリュンヒルデの体が紅き雷を纏い始める。常人の許容量を大幅に超えるほどの龍のエネルギーが、ブリュンヒルデを竜族(ドラグネイル)へと変えていく。

「か…体が徐々に白くなっていくっ!!

ブリュンヒルデの皮膚が徐々に竜の皮膚と化し、堅くなっていく。背中には立派な翼が生え、ブリュンヒルデは完全な竜族へと変貌を遂げた。

「この力で…今すぐリリシアを葬り去りたい気分だわっ!!

みなぎる力を抑えきれないブリュンヒルデは、天より雷を呼びよせる。その稲光の音は、部屋で休憩を取っているリリシアたちの耳にも聞こえてくる。

 「何か大きな音が聞こえたみたいね……ちょっと見てくるわ。」

大きな音の正体を探るべく、リリシアが玉座の間へと急いだ。リリシアの後を追うべく、ディンゴとゲルヒルデも後に続く。

「玉座の間には誰もいないようね…。」

リリシアがそう言って裏口から外に出た瞬間、奇襲攻撃のごとく天より雷が降り注ぎ、リリシアの体を貫く。リリシアが空を見上げた瞬間、そこには黒衣を身に纏った女がそこにいた。

「き…貴様は……ブリュン…ヒルデッ!!!

「フフッ……白き王には無理だったが、白き王の力を取り込んだ今の私ならリリシアという忌まわしき存在を消し去れるほどの力を手に入れたっ!さぁ…ここで終わりにしてあげるわっ!!

雷に貫かれ体が麻痺したリリシアに止めを刺すべく、手の平に憎悪の雷を集め始める。

「一度は葬り損ねたが…今度こそさよなら…リリシアぁ♪」

「そうはさせないっ!!サンクチュアリ・フィールドっ!!

ブリュンヒルデの手のひらから憎悪の雷が放たれた瞬間、リリシアの後を追っていたゲルヒルデが防壁の術を唱え、憎悪の雷を弾き返す。

 「ゲルヒルデめ……余計な邪魔をっ!!まぁあなたも憎悪の対象の一つだから…忌々しいリリシアと一緒に葬ってあげるわっ!!

ゲルヒルデの防壁の術によってリリシアを葬り損ねたブリュンヒルデは、憎悪の力をさらに集め、禍々しいほどのオーラがブリュンヒルデの体を包み込む。

「お姉様の体から……白き王と同じ…いや、それを超えるほどの力を感じるわっ!!

「私は白き王の力を取り込み、竜族の持つ力を得たっ!!そして私は…フェルスティアと魔界…この二つの世界を統べる女王となるのよっ!!

その言葉の後、ブリュンヒルデは憎悪の魔力を集め、天に向かって獄炎の大火球を放つ。ブリュンヒルデの放った大火球は魔天を歪ませ、人間界へと続く次元の裂け目が出来る。

 「フフフッ…今の所はこれぐらいにしてあげるわ。リリシア…私の野望をとめたければ、今すぐ魔天の裂け目から異次元の狭間に来なさい……今度こそ因縁に決着を付けてあげるわっ!!

そうリリシアに言い放った後、ブリュンヒルデは魔天の裂け目へと姿を消した……。

 

 ブリュンヒルデが魔天の裂け目へと姿を消した後、リリシアたちはガルフィスたちのいる部屋へと向かい、先ほど起こった出来事を伝える。

「リリシアよ、それは真の話か!?ブリュンヒルデが白き王の力を取り込み……竜族となったというのか……しかし今は仲間たちも白き王との戦いで疲れている…。仲間たちの疲れが完全に回復してから向かおう。」

ガルフィスのその言葉の後、寝室へと向かったリリシアはベッドに寝転がり、深刻な表情で一人呟いていた。

 「このまま奴を放っておけば……地上界にいるクリスたちが死んでしまうかもしれない……。ブリュンヒルデが地上界へと侵攻する前に…止めなければならないわ。」

リリシアがそう呟いた後、目を閉じて眠りについた……。

 

 長い夜が開け、魔界に朝が訪れた。その朝、リリシアたちはガルフィスたちに連れられ、魔天の狭間に行くために必要なフリゲートが停泊している王宮の格納庫へとやってきた。

「みんな…魔天の狭間に行くためには、このフリゲートと呼ばれる機械に乗らなければ行くことは出来ない。さぁみんな、これに乗って最後の戦いの場へと向かおう……。」

ガルフィスがリリシアたちを乗せた後、コントロールルームへ行き発進の準備を始める。

 「エンジン出力50100150!!ブースター・イグニッションッ!!!

轟音と共に、魔界製フリゲートが魔天の狭間へと向けて発進する。フェルスティア…そして魔界を守るため、リリシアたちの最後の戦いが、今まさに始まろうとしていた……。

 

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