第十七話 覚醒の竜魔姫

 

 祖なる龍と化した白き王に、リリシアはたった一人で強大な敵と戦っていた。白き王の攻撃を次々とかわし、白き王に的確に攻撃を加えていくリリシアであったが、天より降り注ぐ稲妻の直撃を受け、リリシアは傷つき倒れてしまった。白き王が勝利の雄叫びを上げた後、棺を抱えたブリュンヒルデが現れ、傷つき倒れたリリシアを棺の中に入れると、大火球の術を唱えてリリシアを火葬しようとした瞬間、王座の間の裏口からディンゴたちが現れたせいで集中が乱れ、リリシアを葬り去ることが出来なかった。リリシアを助けるべく、ディンゴが棺の中に入った魔姫を抱えて走っていく様子に気を取られている隙に、ゲルヒルデの束縛の術でブリュンヒルデ縛り付けた後、睡眠蝶の粉で眠らせて棺の中に閉じ込めて足止めした後、リリシアに治癒を施す。ゲルヒルデの治癒の術のおかげで元気を取り戻したリリシアは、駆けつけた仲間たちと共に白き王の待つ戦場へと向かうのであった……。

 

 リリシアたちが再び戦いの場に戻った瞬間、白き王がこちらを睨みつけながら舞い降りる。

「あれほどの攻撃を受けてもなお立ち上がってこれるとは……。リリシアよ、貴様の仲間が束になっても勝てないということを今ここで思い知らせてやるっ!!

その言葉に怒りを感じたハクは、床に落ちた神龍剣を白き王に突きつけ、答える。

 「仲間がいるから……より強い力が出せるものだ。白き王よ、メディス様が次々と悪しき龍を滅ぼしたこの剣で……貴様を倒すっ!!

ハク神龍剣を構えた瞬間、白き王は紅い瞳を光らせてハクを睨み付ける。

「小娘たちの前に……貴様を先に葬ってやるっ!!

その言葉の後、白き王は天高く咆哮を上げる。咆哮と同時に、天から稲妻が降り注ぎ、ハクを襲う。

「稲妻を回避しつつ……一気に奴のほうへと近づくっ!!

ハクは素早い動きで稲妻を避け、白き王の懐へと移動する。懐へと移動したハクは大きく空中に飛び上がり、白き王の頭部に攻撃を加える。

 「喰らえぇっ!!

気合と共に神龍剣が振り下ろされた瞬間、白き王の角が真っ二つに斬り落とされ、地面に落ちる。角を斬り落とされた痛みで、白き王はその場に倒れる。

「よしっ!!今のうちに弱点である頭部に集中攻撃をかけるわよっ!

リリシアの掛け声で、白き王の弱点である頭部に集中攻撃を仕掛けていく。

「わかった……まずは私が攻撃を仕掛けるっ!!

ガルフィスの目にも留まらぬ抜刀術が、白き王の頭部に炸裂する。光速の抜刀術の一撃を受け、白き王のもう片方の角が斬りおとされる。

 「ぐっ…角を二つ斬り落とされてしまうとは!!私としたことが……しかしそううまくはいかんぞっ!!

白き王は倒れた状態から翼を羽ばたかせ、再び態勢を立て直した後大きく上空へと舞い上がり、見晴らしの塔に座す。

「しまった!!奴が見晴らしの塔に座されたら……あの稲妻がくるわっ!!みんな、急いで回避の態勢をっ!!

リリシアが回避するようにそう言うと、ディンゴたちは稲妻の直撃を避けるべく、一斉に回避の態勢を取り始める。ゲルヒルデはディンゴたちを安全な場所へ移動させると、リリシアを呼び寄せる。

「リリシア様、ここなら稲妻の直撃は避けられますわっ!!

ゲルヒルデの言葉で、リリシアは安全な場所へと移動する。全員が集まったことを確認すると、ゲルヒルデは防壁の術を唱え、少しでも稲妻のダメージを軽減しようとする。

 「聖なる防壁よ……仲間たちを脅威から守りたまえっ!!サンクチュアリ・フィールド」

詠唱を終えた瞬間、リリシアたちの頭上に守りの防壁が形成される。その頃、見晴らしの塔に座す白き王は咆哮を上げ、天より稲妻を呼び寄せる。

「何処へ隠れても無駄だっ!!わが祖なる雷は相手を必ず貫く雷の矢だからなっ!!

天より降り注ぐ無数の稲妻が、容赦なくリリシアたちに襲い掛かる。ゲルヒルデの守りの防壁の術に守られているリリシアたちは、稲妻が止むのを待っていた。

「みんな……稲妻が俺たちの方に落ちてくるぞっ!!このままでは防壁が破られてしまうっ!

ディンゴが空を見上げた瞬間、稲妻がリリシアたちのほうへと落ちてくる。守り防壁のおかげで何とか直撃は免れたが、守りの防壁がダメージを受け、大きなヒビが入る。

 「稲妻が止んだみたいね…。そろそろ戻りましょうっ!!

稲妻の雨が止み、リリシアたちは再び戦場へと戻ってくる。リリシアが戦場に戻ってきたと同時に、白き王は翼を羽ばたかせ、魔姫のほうへと向かってくる。

「私の祖なる雷をかわしきるとは……しかし、私の力はこんなものではないぞっ!!

白き王は体に力を込め、先ほどの稲妻で消費したエネルギーを補うべく、体内発電を始める。体内発電が始まった瞬間、白き王の全身が赤き雷に包まれる。

「くそっ…角を二本折られているせいで奴らを葬れるだけの雷のエネルギーが溜まらんっ!!まぁよい…残り二本の角に十分エネルギーが溜まれば再び祖なる雷を放てるっ……!!

白き王が体内発電を終えた後、武器を構えたリリシアたちが一斉に攻撃態勢にはいる。

「奴の胸部に傷を与えてあるから、遠隔攻撃のできるイレーナとディンゴはそこを狙ってちょうだいっ!!

私たちは足を攻撃し、転倒を狙うわっ!!ゲルヒルデとルシーネは私たちのサポートをお願いっ!

遠隔射撃のできる武器を持つイレーナとディンゴが胸部を狙い、リリシアはガルフィスと金騎士を引き連れ、白き王の足を攻撃し、転倒させる作戦に出る。ゲルヒルデは遠隔射撃班、ルシーネは近接攻撃班のサポートに入る。

 「奴の胸部の甲殻がはがれ、生身の肉体が剥き出しになっている。イレーナよ、ここを狙っていくぞっ!!

イレーナは弓を引き絞り、ディンゴは巨大な龍に有効な龍殺弾をボウガンに装填した後、二人は白き王の甲殻がはがれた胸部に照準を合わせ、放つ準備に入る。

「イレーナ、しっかり狙って絶対に奴の胸部を狙うんだぞっ!!

「わかりましたっ!!では一緒に放ちましょうっ!!

イレーナの矢と、ディンゴの龍殺弾が同時に放たれ、白き王の胸部にダメージを与える。二人の攻撃が炸裂し、白き王は痛みのあまり怯む。

「ぐっ……ぐおおおおおおっ!!

白き王が痛みに怯んでいる間、近接攻撃班が転倒させるべく、リリシアたちは足に一斉攻撃を仕掛ける。

 「二人の遠隔攻撃のおかげで奴は怯んでいる。この隙に足を攻撃し、転倒を狙うぞっ!

イレーナとディンゴの攻撃によって怯んでいる隙に、金騎士が先陣を切って白き王の足に攻撃を仕掛ける。

「我が銀剣の一撃……受けてみるがいいっ!!シルヴィアンセ・ド・カメリアァッ【銀色の椿】!!

金騎士が手に持った剣を大きく振り上げると、銀剣の刀身に眠る炎が集まり、銀剣が真の姿を現す。

「みんな離れてくれっ!!この技は味方を巻き込みかねないっ!

リリシアたちが離れた瞬間、金騎士は気合と共に白き王の足に銀剣の一撃を叩き込む。その一撃により、白き王の足が地面から離れる。

「やった!!奴が転倒したわ!!今のうちに頭部に集中攻撃をっ!

金騎士の渾身の一撃が炸裂し、地面に倒れた白き王の頭部を攻撃すべく、鉄扇を構えたリリシアが白き王の頭部へ移動し、乱舞の態勢に入る。

「はああああああぁぁっ!!!

気合と共に繰り出される鉄扇の一撃が、次々と白き王の頭部を切り裂いていく。リリシアの鉄扇の乱舞の後、ディンゴが紫炎弾を装填し、白き王の頭部を狙う。

 「攻撃するなら……今のうちだっ!!

ボウガンから放たれた紫色の弾丸は、白き王の顔面に命中し爆発を起こす。紫炎弩の特殊効果により、一発の紫炎弾の威力が増していたが、放った本人は少し物足りない様子であった。

「リリシア、戦っているところ悪いが、紫炎弩に魔力を少し分けてくれっ!!

「仕方ないわね……ほんのすこしだけだからね。この戦いでは魔力を温存しなきゃならないんだから…。」

ディンゴの要求をしぶしぶ了承したリリシアは、自分の魔力を少し紫炎弩に魔力を注ぎ込む。魔力が注ぎ込まれた紫炎弩に取り付けられたリリシアの髪飾りを模した魔力蓄積装置が青く輝きだす。

「ありがとう!!おかげで弾丸にリリシアの持つ強大な魔力を付加し、より強力な一撃をお見舞いすることが出来るぜっ!リリシアはまだ知らなかったから、ここで話しておこう…お前の髪飾りを模した紫炎弩の魔力蓄積装置は、注入した魔力に応じて弾丸を魔力強化できる上、蓄積された魔力を魔力弾として発射することも可能だ。試しに一度奴にぶっ放すから、よく見ているんだ…。」

髪飾りを模した魔力蓄積装置を立てた後、ディンゴは紫炎弾を装填し、白き王の頭部を狙う。しかし白き王が態勢を立て直した為、照準が定まらない。

 「奴が起き上がったか…。まぁいい、リリシアの魔力が付加された弾丸の一撃をお見舞いしてやるぜっ!!

白き王の胸部に狙いを定め、ディンゴは引き金を引く。引き金が引かれた瞬間、魔力を帯びた紫炎弾は紫の炎を纏った竜と化し、白き王の胸部へと向かっていく。

「リ…リリシアの魔力で、紫炎弾が…形を変えたっ!?

紫の炎を纏った竜と化した紫炎弾が、白き王の胸部に炸裂する。ディンゴの放った弾丸が白き王の胸に突き刺さった瞬間、大きな爆発が巻き起こる。

「ぐおおおおぉぉっ!!この私がボウガンの弾丸ごときで怯まされるとはっ!?そろそろ私の本気という物を見せてやるとするか……。」

白き王は全身に力を込めた瞬間、ガチガチという音と共に全身の肉質が堅くなっていく。今まで刃が通っていた足も、鉄のごとき硬度と化しなにものも受け付けなくなっていた。

「くっ……いままで足に銀剣の刃が通っていたのだが、まるで鉄のように硬化してしまっている…。これではいくら切れ味が高い武器でも歯が立たない…。みんな、ここは私に任せて、安全な場所へっ!!

今まで足を攻撃していた金騎士は、リリシアたちに引くように命じると、銀剣を構えて白き王に果敢に立ち向かっていく。

 「リリシア殿、私が時間を稼ぐ……その間に奴を倒す対策を練ってくれっ!!

肉質が鋼のごとく硬化し、銀剣の刃が通らないということを分かっていても、金騎士は銀剣を構えて白き王を攻撃する。

「ハハハハハッ!!無駄なことを……何度やっても弾かれるだけだっ!!

何度弾かれても、白き王は銀剣を振るい続ける。金騎士が白き王と戦っている間、リリシアたちは白き王を倒すための対策を練っていた。

「あの金騎士の持つ銀剣でも歯が立たないほど肉質が堅くなっているなんて……。」

「諦めるのはまだ早いさゲルヒルデ…。すべての攻撃が歯が立たなくなった今、爆弾で奴にダメージを与えるしかないな…。よし!!そうと決まれば爆弾作りに取り掛かるぞっ!!

肉質が硬化した白き王に少しでもダメージを与えるべく、ディンゴはゲルヒルデと共に爆弾作りに取り掛かった。二人が爆弾を作っている間、ハクはリリシアを呼び、白き王を倒す作戦を考えていた。

 

 「リリシア殿、一つ話があるので、是非とも聞いてくれぬか…。」

ハクの言葉に、リリシアはそっと耳を傾ける。

「話って…もしかして白き王を倒す方法が見つかったのねっ!!

「リリシア殿の言うとおりだ。確かに君たちの武器では肉質硬化を始めた白き王にダメージを与えられない。そこでだ…リリシア殿と私が合体して、竜族(ドラグネイル)となって白き王と戦わなくてはならない…。少々危険が伴うが、やってくれるか?

ハクの言う白き王を倒すための方法とは、ハクとリリシアが合体し、人間をはるかに超える力を持つ竜族となって白き王と戦う作戦であった。

 「わかったわ…。じゃあ合体の準備を初めてちょうだい…。」

リリシアの言葉を聞いたハクは、合体の準備を始める。

「ではそろそろ合体といこうか…リリシア殿。私の手をつないだ後、目を閉じて魔力を解放するんだ…。私の竜族の力と君の膨大な魔力があれば、合体は必ず出来るっ!

リリシアとハクが手をつなぎ、目を閉じて魔力を解放する。二人が瞑想を始めてから数分後、リリシアの体にハクの竜族の力がつないだ手を伝って流れ込んでいく。

「私の中に……私の中にハクの持つ竜の力が流れ込んでくるようだわっ!!この力さえあれば……白き王をやっつけられそうだわっ!!

その言葉の後、紅い稲妻がリリシアを包み込む。リリシアを包み込む紅い稲妻が消えた後、竜族と化したリリシアが紅い稲妻を纏いながら現れる。

 「あわわわわわっ……ハクとリリシア様が合体して…一つになっちゃった!!

竜族と化したリリシアを見たゲルヒルデは、驚きのあまり腰を抜かしていた…。

「うふふっ…驚かしちゃったわね。さて、そろそろ戦いの場に戻らないとね。」

白銀の髪をなびかせながら、リリシアは鉄扇を構えて戦場へと戻っていく。時を同じく、金騎士は白き王の攻撃をかわし続け、少しでも作戦を練る為の時間を稼いでいた。

「無駄だ無駄だっ!!私の硬化した肉質の前には無力だっ!

攻撃を回避し続ける金騎士に怒りを感じた白き王は、天に向かって咆哮を上げる。咆哮を上げた瞬間、天より稲妻が降り注ぎ、金騎士を襲う。

「またその技か……しかし私には通用しな…ぐわあああぁっ!!!?

紅き稲妻が地面に落ちた瞬間、跳ね返った稲妻が金騎士の体を貫いた。稲妻によって体を貫かれた金騎士は、傷つきその場に倒れる。

「遊びは終わりだ……骨の欠片も残さんっ!!

白き王は口を大きく開け、雷弾を放つ態勢に入る。稲妻に貫かれ、体が麻痺した金騎士は動くことも出来ず、もはや死しか残されていない状況であった。

 「くっ…こんなところでっ……!!動け…俺の体よっ!!

動くことが出来ない金騎士に、無情にも白き王の雷弾が襲い掛かった。金騎士が死を覚悟した瞬間、白銀の髪をした女が高速で滑空し、金騎士を抱えて空へと舞い上がり、雷弾の直撃を避ける。

 

 「そ、そなたはリリシア殿ではっ!?

金騎士が振り向いた瞬間、竜族と化したリリシアの姿がそこにあった。

「そうよ…。ハクと合体して竜族となったのよ。後は私に任せてちょうだいっ!!

金騎士を安全な場所へと移動させた後、魔姫は白き王のほうへと向かっていく。ゲルヒルデは傷つき倒れた金騎士の手当てをするべく、目を閉じて癒しの術を唱える。

 「癒しの光よ……傷つきし者に再び戦う力をっ!!ヒール・シャインっ!

ゲルヒルデが詠唱を終えた瞬間、聖なる光が金騎士を包み込み、傷を癒していく。金騎士の傷を癒した後、ゲルヒルデはディンゴと共にリリシアの後に続く。

「リリシア様……傷ついた時は私がいつでも回復して差し上げますわっ!!

「ゲルヒルデと一緒に作っていた爆弾が完成した。リリシア、俺も一緒に戦わせてくれっ!!

その二人の言葉に、真剣な眼差しをしたリリシアが答える。

「みんな、ここから先は一筋縄では行かないわよ。白き王の肉質が硬化した今、私の攻撃しかダメージを与えられないけど…みんなで力を合わせればきっと勝てるわ!白き王…貴様の野望は私たちで打ち砕くっ!!

リリシアの挑発的な言葉に、白き王は怒りの表情を浮かべながらこちらのほうへと向かっていく。

 「リリシアめ…白竜族の小僧と合体し、竜族の力を手に入れたか……。だが、最後に笑うのはこの私だっ!!

その身に紅き雷を纏った怒れる白き王の巨体が、徐々にリリシアたちの下へと近づいてくる。ハクと合体し、竜族の力を手に入れたリリシアとその仲間たちは、祖なる龍を倒すことが出来るのであろうか……!?

 

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