第十六話 祖なる龍、覚醒

 

 白き王のいる玉座の間を目指すリリシアたちの前に、白き王の側近で【破壊皇】の異名を持つ巨漢の男、ブロウディアが立ちはだかった。頑強な黒い鎧に身を包み、大剣を操るブロウディアの猛攻に、なす術無く仲間たちが倒れていく。仲間を倒され、怒りに燃えるガルフィスは死闘の末、ブロウディアに勝利した。しかし死ぬ間際に放った大きな地響きによって天井が崩落し、リリシアは仲間たちと離れ離れになってしまった。分断された王宮の廊下に一人残されたリリシアは、白き王を倒すべく王座の間へと向かったのであった……。

 

 リリシアが玉座の間へと足を踏み入れた瞬間、白き王は不気味な笑みを浮かべながら出迎える。白き王を葬り去るという魔姫の言葉を聞いた白き王は、一本の剣をリリシアのほうへと放り投げた。その剣はかつてメディスが白き王を封印した至高の武器である神龍剣【白雪】であった。リリシアがその剣を手に取った瞬間、白き王は白く輝く剣を構えてリリシアを迎え撃つ。まだ剣も握ったことの無いリリシアは最初は白き王の剣術にに押されていたが、神龍剣を左手に、鉄扇を右手に持つことで、戦力は大幅にアップした。リリシアは二つの異なる武器で形成された双剣の乱舞で形勢逆転するが、最後の一撃を放った瞬間白き王の皮膚が龍の甲殻となり、ダメージを与えられなかった。裏口から外に出た白き王は、祖なる龍(アンセスター・ドラグーン)と化し、リリシアへと襲い掛かるのであった……。

 

 巨大な白銀の龍と化した白き王は、咆哮とともにリリシアのほうへと近づいてくる。リリシアは左手に持った神龍剣を手放し、鉄扇を構えて白き王へと立ち向かっていく。

「貴様を倒して……すべてを終わらせるっ!!

白き王の足元に近づいた魔姫は、鉄扇を振るい白き王に攻撃を与える。しかし肉質が堅く、鉄扇で斬り付けても鱗に傷が入るだけで、たいしたダメージを与えられなかった。

「そんな……私の攻撃が効かないなんて…!?

「貴様の攻撃など、痛くもかゆくもないわぁっ!!

リリシアの気配に気付いた白き王は、尻尾を振り回してリリシアを大きく吹き飛ばす。

「きゃああああぁぁっ!!

白き王の尻尾の直撃を受けたリリシアは、大きく吹き飛ばされたがまたすぐに態勢を立て直し、白き王のほうへと向かっていく。

 「何度やっても無駄だっ!!馬鹿な奴め…思い知るがいいっ!!

その言葉の後、白き王は天を突く咆哮を上げる。咆哮を上げた瞬間、上空から稲妻が降り注ぎ、リリシアを襲う。

「奴め…稲妻を呼び寄せたわね。しかし…私には当たらないわよっ!!

リリシアは素早い身のこなしを生かし、天から降り注ぐ稲妻を回避する。稲妻をすべて避けきった後、魔姫は術を放つ態勢に入る。

「武器じゃダメなら……術で攻撃するまでよっ!!

赤き炎の力を手のひらに集め、魔姫は白き王にダメージを与えるべく、詠唱を始める。

「赤き炎の力よ……炎の鎖となりて悪しき者を焼き尽くさん…フレイム・チェインっ!!

リリシアの手のひらから現れた灼熱の炎を帯びた鎖が、白き王の体に巻きつき、束縛する。灼熱の鎖に縛られ身動きの取れない白き王は、鎖を引きちぎるべく体に力を込める。

 「これしきの鎖など…引きちぎってくれるわぁっ!!ふんっ!

白き王が体に力を込めた瞬間、体を束縛する灼熱の鎖が引きちぎられる。

「灼熱の鎖は懐へと近づくための囮よ…。今度は私の番よっ!!

リリシアが鉄扇に赤き炎の力を込めた瞬間、鉄扇が赤く輝き、さらに鋭利さを増す。リリシアは鉄扇を握り締め、乱舞の態勢に入る。

 「はあああああぁぁぁっ!!

リリシアは目にも留まらぬ速さで繰り出される赤き斬撃が、白き王の体を切り刻んでいく。

「ぐっ……ぐおおおおぉぉっ!!!

リリシアの鉄扇の乱舞の一撃を喰らった白き王は、一瞬だが動きが止まる。白き王が怯んだのを見計らい、リリシアは鉄扇を振るうスピードを上げ、さらに追撃を加える。

「奴が怯んでいる間に……さらに攻撃を叩き込まなければっ!!

怯んで動けない白き王に、リリシアの乱舞が腹部に炸裂する。その一撃により、白き王の胸部を覆う甲殻が傷つき、傷口から少量の血が流れる。

 「き…貴様っ!!この私に傷を付けさせるとは…面白い……ならば私の本気を見せてやるっ!!

傷を付けられたことに怒りを感じた白き王は、その身に雷を纏い、角と頭部の一部が赤く染まり、より凶暴性を増す。

「どうやら奴も本気を見せ始めたようね……ならこちらも本気でいかせてもらうわっ!!

リリシアは背中に六枚の翼を生やし、先ほどの乱舞の一撃で傷をつけた胸部のほうへと飛びあがる。白き王は傷ついた胸部に追撃を加えんと向かってくるリリシアを叩き落すべく、大きな腕を振り上げる。

「追撃は加えさせんっ!!砕け散れっ!

雷を纏った白き王の巨大な腕が、空中にいるリリシアへと振り下ろされる。リリシアは急いでその場から離れ、白き王の腕の一撃を回避する。

 「あの一撃を喰らえばひとたまりもないわね…。ここは一旦離れて術で攻撃したほうがいいわね…。」

リリシアは怒り状態になった白き王から離れ、術を放つ態勢に入る。

「荒れ狂う闇の力よ……全てを打ち砕かんっ!カオシックペインっ!!

リリシアの手のひらから、凝縮された闇のエネルギーが白き王の胸部に放たれる。リリシアが術を放った瞬間、白き王はリリシアのほうを向く。

「この程度の術なら……簡単に打ち破ってくれるわっ!!

白き王は口を大きく開き、紅き雷弾をリリシアめがけて吐きだす。口から吐き出された紅き雷弾は、リリシアの放った闇のエネルギーを打ち破り、スピードを上げてリリシアのほうへと向かっていく。

「わ…私のカオシックペインが破られてしまうなんてっ!?

そう呟いた直後、白き王の紅き雷弾がリリシアの体に直撃する。

「きゃああああああぁぁっ!!

紅き雷弾の直撃を受けたリリシアは、大きく吹き飛ばされその場に倒れる。リリシアが立ち上がろうとするが、先ほど受けた紅き雷弾の一撃で体が麻痺してしまったのか、一歩も動けない状態であった。

 「か…体が動かないっ……!!

白き王の巨体が、体の自由が利かないリリシアの所へと近づいてくる。

「フッフッフ……体が麻痺して動けんじゃろう…リリシアよ。名残惜しいが…そろそろ止めと行こうかっ!!

白き王がリリシアにそう言い放った後、大きな腕を振り上げてリリシアに襲い掛かる。

「よしっ、少しだけだが痺れが消えて手が動かせるわ…手だけでも動かせれば、この態勢でも術が放てるっ!!

雷を纏った白き王の巨大な腕が振り下ろされた瞬間、リリシアは赤き炎の力のエネルギーを地面に放ち、その推進力で大きく後ろへと移動し、巨大な腕から逃れる。

「チッ……小娘めっ!!こしゃくなマネをっ!!そのまま地獄に落ちればよいものをっ!

「私はこんなところで負けてられないのよ……さぁ、戦いはこれからよっ!!

体の痺れが消えたリリシアは再び立ち上がり、床に落ちた鉄扇を拾い、再び戦闘態勢に入る。白き王はリリシアを睨みつけ、紅き雷弾を放つ態勢に入る。

 「フンッ!!貴様など私の雷弾で麻痺させて、そのまま地獄へと送ってやるっ!!

白き王は大きく口を開け、再び紅き雷弾をリリシアめがけて吐き出す。紅き雷弾をかわすべく、リリシアは大きく翼を広げ、上空に飛び上がる。

「悪いけど…同じ手は喰らわないわよっ!!

鉄扇を手に持ったまま、リリシアは先ほど傷をつけた白き王の胸部へと急降下していく。白き王の胸部へと急降下した後、リリシアの鉄扇の一撃が炸裂する。

 「グッ……グオオオオオオォォッ!!

急降下の遠心力が加わったリリシアの鉄扇の一撃により、白き王の胸部を覆う甲殻が剥がれ、生身の肉体が露となる。

「やったわっ!これで弱点が出来たわ。後はその破壊した部位を狙うだけよ…。」

白き王の胸部の甲殻を剥がした後、リリシアは白き王から離れて赤き炎の力を解放する。

「またあの赤き炎とやらの力か…しかしっ!!祖なるものと化したこの私に通じると思ったら、大間違いだぞぉっ!!

白き王は大きな翼を広げ、空へと舞い上がる。空へと舞い上がった白き王は、見晴らしの塔の頂上に座し、天高く咆哮を上げる。そのおぞましいほどの咆哮は、分断された王宮の三階の廊下にいるディンゴたちにも聞こえた。

 「な…なんなんだこのけたたましいほどの轟音はっ!!

ディンゴが驚く中、白竜族のハクが何かを思い出したのか、ディンゴたちにそう伝える。

「このおぞましいほどの咆哮が聞こえたという事は、祖なるものが怒りをあらわしたという証拠だ。リリシア殿は祖龍と化した白き王と戦っているはずだ。ディンゴ殿、早く爆弾を作って私たちも玉座の間に向かおうっ!!

ハクのその言葉の後、ゲルヒルデとディンゴが作っていた爆弾が完成した。

「爆弾が完成したわ。ディンちゃん、私が爆弾を置いてくるから、導火線に火をつけてちょうだいっ♪」

「わかった!!早くリリシアたちと合流しないといけないからなっ!!頼んだぞ……ゲルヒルデ!

ディンゴが導火線に火をつけた後、ゲルヒルデは爆弾を抱えて天井から崩落した瓦礫のほうへと向かっていく。

 「ここに置けばいいのね。じゃあこの場所に……きゃあぁっ!!!

ゲルヒルデがそう言って爆弾を置こうとした瞬間、導火線が完全に燃えきった爆弾が爆発し、玉座の間へと続く道を分断している瓦礫を吹き飛ばす。爆風によって大きく吹き飛ばされたゲルヒルデを、ディンゴが抱きかかえる。

「大丈夫かっ!?

「ええ…私は大丈夫よ。それよりはやくリリシアたちの元へと向かいましょうっ!

爆風によって、分断していた瓦礫が吹き飛び玉座の間への道が開かれた。ディンゴは仲間たちを集め、リリシアと合流すべく玉座の間へと向かうのであった……。

 

 ディンゴたちが玉座の間へと向かっている頃、見晴らしの塔に座す白き王は再び怒りの咆哮を上げ、リリシアを威嚇する。

「ギシャアアアアアアアァァッ!!!

咆哮を上げた瞬間、天から無数の紅き稲妻が降り注ぎ、リリシアを襲う。無数に降り注ぐ稲妻を避けるべく、魔姫は急いで回避の態勢にはいる。

「当たってたまるものですかっ!!こんなもの、私の素早さで避けきってみせるっ!!

避けても避けても、紅き稲妻はリリシアを襲ってくる。稲妻を避け続ける魔姫に、奇襲攻撃のごとく頭上から紅き稲妻がリリシアの体を貫く。

「ぎゃあああああぁぁっ!!

紅き雷に貫かれたリリシアは、傷つきその場に倒れる。倒れて動けない魔姫に、二発目の稲妻がリリシアの体を貫く。

 「まだ死ぬわけにはいかない……死んでたま…きゃああぁっ!!!

立ち上がろうとしたリリシアを、二発目の稲妻が魔姫の背中を貫く。稲妻の直撃を受けて倒れたリリシアを見た白き王は、勝利の雄叫びを上げる。

「勝った……勝ったぞっ!!ついに私はリリシアを葬り去ったぞぉっ!!

白き王が勝利の雄叫びを上げた後、ブリュンヒルデが白き王のもとに現れる。

「ついに…リリシアを倒したのね。これで魔界は私たちのものよっ!!その前に…リリシアの亡骸を火葬してあげなくちゃね…。」

不気味な笑みを浮かべながら、ブリュンヒルデは倒れたリリシアのほうへと向かっていく。ブリュンヒルデはあらかじめ用意していた棺の中にリリシアを入れると、白いバラを献花する。

 「フフフ…リリシアぁ。これからの魔界は、白き王様が導いてくれるわ。あなたはもう用済みよ、私がここで灰に変えてあげるわ……。」

ブリュンヒルデが手のひらを天にかざした瞬間、巨大な火球が形成される。

「さぁて…そろそろお別れの時間ね。地獄で白き王が統治する魔界を眺めているがいいわっ!!

ブリュンヒルデが腕を振り下ろそうとした瞬間、玉座の間の裏口からディンゴたちが現れる。その不測の事態に、ブリュンヒルデの集中が途切れ、空中に浮かぶ火球が跡形も無く消え去る。

「リリシア、助けに来たぞっ!!

「お姉様っ!!リリシア様に何をしたのっ!

リリシアたちの仲間の登場に、ブリュンヒルデは不敵な笑みを浮かべる。ゲルヒルデは姉であるブリュンヒルデのほうを睨みつけ、怒りの表情でブリュンヒルデのほうへと近づいてくる。

 「決まっているでしょ…私はリリシアをこの手で火葬してあげるって言っているのよ。悪いけど、妹のあなたに邪魔をされると困るのよ…だからここであなたも葬ってさしあげますわっ!!

リリシアから奪った魔界王の杖を手に、ゲルヒルデのほうへと向かっていく。ゲルヒルデは魔導書を手に、術を放つ態勢に入る。

「ディンちゃん、リリシア様はあの棺の中に入っているわっ!!私がお姉様を足止めするから、リリシア様を安全なところに避難してあげてっ!!

「分かったぜゲルヒルデ……なんとか奴を足止めしてくれっ!!

ディンゴにリリシアを安全な場所へと避難させるようにそう言うと、ディンゴは棺から傷つき倒れたリリシアを抱え、ガルフィスのもとへと走っていく。

「き…貴様っ!!リリシアをどこに連れて行くつもりだっ!

リリシアを抱えて走るディンゴに気を取られているブリュンヒルデに、ゲルヒルデは背後から束縛の術を唱え、ブリュンヒルデを捕縛する。

 「光の鎖よ……悪しき者を捕縛せよっ!!ホーリー・バインドっ!!

ゲルヒルデが詠唱を終えた瞬間、光の鎖がブリュンヒルデの体に巻きつき、束縛する。ブリュンヒルデを光の鎖で束縛して睡眠蝶の粉を吹きかけた後、棺の中に入れる。

「お姉様……しばらくここで反省していなさいっ!!

ゲルヒルデは棺の蓋を閉めた後、光の鎖で蓋を固定する。ゲルヒルデはブリュンヒルデを閉じ込めた棺を安全な場所へと移動させると、傷つき倒れたリリシアの治癒に向かう。

「リリシア様っ!!私が今治療してあげるわっ!!

ゲルヒルデは目を閉じて集中し、リリシアの治癒に入る。治癒に入った瞬間、ゲルヒルデの手のひらから陽だまりのような暖かい光が放たれ、リリシアの体を癒していく。

 「私の体に……力が戻ってくるっ!!

ゲルヒルデから治癒を受けていたリリシアは、体に力が戻ってくるのを感じていた。ゲルヒルデの回復の術のおかげで、リリシアの傷が完全に回復し、再び戦える状態になった。

「ありがとうゲルヒルデ!!これでまた白き王と戦えるわ!!

「リリシア様、折り入ってお願いがあります。私も……白き王を倒すため、協力させてくださいっ!

ゲルヒルデが差し出した手のひらを、リリシアがぎゅっと握り締める。

 「わかったわ。白き王との戦いは苦戦を強いられるから、あなたのような治癒術士(ヒーラー)が一番頼りになる存在だからね…。そうだ、あなたにこれを渡しておくわ。」

リリシアは自分の鞄から、なにやら薬のような物を手渡す。

「この薬は聖女の涙という薬よ。飲めば魔力が完全に回復する薬よ。一応二本あるから、魔力が無くなったときに使って!!

「ありがとうございますリリシア様!!傷ついたら、私が回復して差し上げますわっ!!

リリシアから聖女の涙を手渡されたゲルヒルデは、魔力が無くなったときにすぐに使えるよう、鞄の中にそれを入れると、リリシアとともに白き王の待つ戦場へと向かっていく。

 「みんな、白き王を倒しルーズ・ケープの王宮を取り戻すわよっ!!

リリシアの言葉で、仲間たちは一斉に武器を構える。リリシアたちが戦闘態勢に入った瞬間、白き王がリリシアたちの前に降り立ち、仲間たちを睨み付けながらそう言い放つ。

「仲間が現れよったか……まぁいい、仲間もろとも地獄へと送ってやるっ!!!

白き王は舌なめずりをした後、紅い目を光らせながらリリシアたちの方へと近づいてくる。リリシアたちは祖なるものと化した白き王を倒し、王宮を取り戻すことが出来るのであろうか……!?

 

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