第十五話 死闘!!破壊皇ブロウディア
ゲルヒルデの救出を完了し、リリシアたちが休息をとっている間、王宮の大庭園では魔物たちとガルフィスたちが戦っていた。魔物たちを殲滅した後、白き王の配下であるヒルデガードが現れた。ガルフィスたちがヒルデガードに立ち向かったが、その圧倒的な力の前に敗れてしまった。ルシーネの救援要請の伝令を聞き、大庭園に駆けつけたリリシアたちは、死闘の末ヒルデガードを退けることに成功した。ヒルデガードを退けたリリシアたちの前に、ブリュンヒルデが現れ、白き王がすべての竜の祖であるということを告げた後、リリシアの髪飾りを床に放り投げ、その場を去って行った……。
ヒルデガードを退けたリリシアたちは、白き王の待つ玉座の間を目指すべく、足を進めていた。時を同じくして、白き王の元にブリュンヒルデが現れる。
「忌々しいリリシアとその仲間たちが王宮に突入しました…それに牢獄に捕らえたはずのゲルヒルデもいます。白き王様、どうしますか?」
「四人の戦乙女を葬った邪魔者が戻ってきたか……ならばこいつらの排除は奴に任せるしかあるまい…。出でよ、破壊皇ブロウディアよっ!!」
白き王が指を鳴らした瞬間、空間の狭間から重装備を身にまとった男が玉座の間に現れる。
「お呼びですか、白き王様……。」
黒くねじれた角の生えた鎧に身を包み、大きな剣を携えたブロウディアが白き王に一礼する。
「我が側近ブロウディアよ…ここが私の新しい居城だ。そこでお前に一つ頼みがある。この王宮を取り返そうとする侵入者を排除してくるのだっ!!」
白き王が侵入者を排除するよう命令すると、ブロウディアが敬意の念をあらわす。
「分かりました…。白き王様、侵入者の顔や特徴を教えていただけないか…。」
ブロウディアの言葉を聞いたブリュンヒルデは、リリシアの顔が書かれた紙を取り出すと、それをブロウディアに手渡し、再び白き王に寄り添う。
「とりあえず……この紙に書かれている女、すなわちリリシアを殺してきてくれって言うことよ。じゃあ、頼んだわよ♪」
「御意。」
ブロウディアはそう言って玉座の間を後にし、リリシアたちの排除に向かうのであった。
その頃リリシアたちは魔物たちを蹴散らしながら、玉座の間を目指していた。
「さぁ、玉座の間はもう目の前よっ!!白き王はこの先に……!?」
何者かの気配を感じたリリシアは、その足取りを止めて鉄扇を構える。
「この先に何者かの気配を感じるわ。みんな、戦う準備をっ!!」
リリシアの声で、仲間たちは武器を構えて戦闘態勢に入る。リリシアたちが戦闘態勢に入った瞬間、黒い鎧に身を包み、大剣を構えた男がリリシアたちの前に現れる。
「見つけたぞ……侵入者よっ!!このブロウディアが成敗してくれるっ!!」
ブロウディアは大剣を床に突き刺し、リリシアたちを威嚇する。
「話して分かる相手ではなさそうね…。みんな、全力で行くわよっ!」
「白き王様の命により……貴様らを排除するっ!!」
ブロウディアが床に突き刺した大剣を振り上げ、戦闘態勢に入る。
「悪いが…こんなところで足止め喰らっている暇はないのよっ!!」
鉄扇を構えたリリシアは、一気にブロウディアの懐に入り、鉄扇の一撃を喰らわせる。しかし頑丈な鎧に包まれているせいで、歯が立たない。
「くっ……鉄扇では弾かれるのが関の山だわ!!ここは離れて魔法で攻撃したほうがいいわね…。」
武器での攻撃では無理だと判断したリリシアは、急いでブロウディアから離れ、術を放つ態勢に入る。
「闇の炎よ、悪しき者を焼き払えっ!!ダーク・ファイアッ!!」
リリシアは赤き炎の力を手のひらに集め、闇の炎をブロウディアに放つ。しかし闇の炎を受けてもなお、ブロウディアは立っていた。
「なんて奴なの……!!ダーク・ファイアを受けても立っていられるなんて……。」
「貴様らがどう足掻こうが、この私は倒せんっ!!受けてみよ我が剣技、大地烈昂剣!!」
ブロウディアが力強く大剣を床に突き刺した瞬間、強烈な地響きがリリシアたちを襲う。地響きが止んだ後、マグマがリリシアたちの周囲に噴きあがる。
「みんな離れて!!噴き出るマグマに当たると大火傷しちゃうわよっ!!」
マグマの直撃を避けるべく、リリシアたちは一旦その場から離る。マグマが止んだ瞬間、銀剣を構えた金騎士は大きく飛び上がり、ブロウディアに必殺の一撃を喰らわせる。
「ここは私が相手になってやるっ!!受けてみよ…ブレイジング・シルヴァレストっ!!」
金騎士が雄叫びを上げた瞬間、銀剣が太陽のごとく光り輝き、ブロウディアの目を眩ませる。目が眩んで動けないブロウディアに、肉質軟化の効果を持つ銀色の斬撃が襲い掛かった。
「ぬうおおおおおぉぉっ!!!」
銀色の光を孕んだ斬撃が、ブロウディアを鎧もろとも切り裂く。切り裂かれた箇所から鎧が腐食し、ブロウディアの皮膚が徐々に柔らかくなっていく。
「こやつは私が引き受ける……。リリシア様たちは早く玉座の間にっ!!」
金騎士がリリシアたちに先に行くようにとそう言うと、リリシアたちは王座の間へと走り出す。その様子を見たブロウディアは大剣を構えてリリシアのほうへと向かっていく。
「貴様ら…逃がさんぞ!!」
ブロウディアがリリシアたちのほうへと走ろうとした瞬間、金騎士がブロウディアの前に回りこみ、剣を突きつけてそう言い放つ。
「悪いが、貴様の相手はこの私だ……ブロウディアっ!!」
「貴様、そこをどけぇっ!!言っても分からぬなら、押し通すのみっ!!」
行く手を阻む金騎士を振り払い、ブロウディアはスピードを上げてリリシアのほうへと向かっていく。
「リリシア様っ!!後ろからブロウディアが追ってきます。ここは私たちで奴を止めますので、あなたたちは先にっ!!!」
その危機を察知したイレーナとルシーネは、武器を構えてブロウディアの前に立ちはだかる。
「リリシア様の邪魔はさせないっ!弓術・破魔の矢ッ!!」
「こちらとて容赦はいたしませんわよ…。アース・グレイヴ!!」
イレーナとルシーネが同時に攻撃を加え、ブロウディアを足止めする。しかし二人の攻撃を受けてもなお、ブロウディアは立っていた。
「フハハハハハハッ!!貴様らがいくら足掻いたって私は倒せんっ!!邪魔を…するなぁっ!!」
ブロウディアは堅い鎧を生かした突進で、イレーナとルシーネを大きく吹き飛ばす。
「きゃああああぁっ!!」
吹き飛ばされた二人は、壁に激突しその場に倒れる。その様子を見ていたガルフィスは、脇差に手を掛け、ブロウディアの前に立つ。
「よくも二人をっ!!リリシアよ、ここは私に任せろっ!」
脇差を構えたガルフィスは、一気にブロウディアの懐に近づき抜刀する。脇差が鞘から抜かれた瞬間、目にも留まらぬ斬撃がブロウディアの体に襲い掛かる。
「な…何っ!?私の鎧がっ!!」
「貴様には早すぎて見えなかったようだな……。私の抜刀術【竜尾返し】は目にも留まらぬ斬撃で貴様の体を切り刻む。金騎士の銀剣の一撃で腐食した鎧なら、いとも簡単に切り裂くことができるのだからなっ…。」
ガルフィスの抜刀術を受けたブロウディアの鎧はボロボロになり、篭手に生える黒くねじれた角も真っ二つに折れるほどの威力であったが、まだしぶとくブロウディアは立っていた。
「ぬぅっ!!この私が小娘の取り巻きにここまで追い詰められるとは……!しかし私はまだ負けるわけにはいかんっ!この大剣で全てを終わらせてやるっ!!」
しぶとく立ち上がったブロウディアは、大剣を構えてガルフィスのほうへと向かっていく。しかしガルフィスは脇差を構え、静かに目を閉じて集中する。
「この私をここまで本気にさせたのは貴様が初めてだ。受けてみよ…我が一太刀の一撃をっ!!」
ブロウディアがガルフィスの目の前まで来た瞬間、脇差から放たれる光速の一閃がブロウディアの腹部を切り裂いた。ガルフィスの脇差の一撃を受けたブロウディアの膝が、地面に付く。
「こ…このままでは白き王様に申し訳が立たないっ!死ぬ前に貴様らを道連れにしてやるっ!」
ブロウディアはリリシアたちを道連れにするべく、自らのすべての力を使い強烈な地響きを引き起こす。その強い揺れを感じたリリシアたちは、走る速度を上げる。
「リリシア、今ここで強い揺れを感じたような気がするのだが……気のせいかな?」
「ディンゴが言っていることが本当なら、何か嫌な予感がするわね…急いで玉座の間へと向かいましょうっ!!」
その言葉の後、リリシアの足元付近で先ほどより強い揺れが起き、王宮の天井が音を立てて崩落を始める。その異変を感じたディンゴは風の力を集め、リリシアに放つ。
「リリシア…お前は先に玉座の間に行くんだっ!!風翔銃(ウインド・バレット)ッ!!」
ディンゴの手のひらから放たれた風圧は、リリシアを玉座の間へと吹き飛ばす。ディンゴが風の術を放った後、天井が崩落し玉座の間への道が閉ざされる。
「リリシア様を先に行かせたのは良いのですが、天井から降ってきた瓦礫が邪魔してこれ以上は進めそうにないわ…。ねぇ、ディンちゃんの力で邪魔な瓦礫をどうにかできないのかしら…?」
「ダメだ…俺のボウガンでは瓦礫を吹き飛ばすほどの火力は持ち合わせてはいない…。だが一つだけ方法がある。君の調合技術と俺の弾薬作成術を組み合わせれば、瓦礫を吹き飛ばすほどの爆弾を作ることが可能だが…やってみないか?」
爆弾を作るというディンゴの提案に、ゲルヒルデは興味津々な様子で賛成する。
「その作戦、ディンちゃんと力を合わせればできそうね!!さて、今から爆弾作りに取り掛かりましょうっ!!」
瓦礫で塞がれてしまった玉座の間への道を開く為、ディンゴはゲルヒルデと共に爆弾作りに取り掛かるのであった……。
天井の崩落によりディンゴたちと離れ離れとなったリリシアは、玉座の間へと続く扉の前まで来ていた。
「この扉の向こうに、私が倒さなくてはならない敵、白き王がそこにいる!!もう後戻りはできないわ。今は目の前の敵を倒すことに専念しなきゃっ!!」
もう後戻りはできないと悟ったリリシアは扉を開き、玉座の間へと足を踏み入れる。玉座の間へと足を踏み入れたリリシアを、玉座に深く腰を落とす白き王が出迎える。
「ほう……誰かと思えばリリシアではないか…。」
その言葉を聞いたリリシアは、怒りの表情で白き王にそう言い放つ。
「ええ、そうよ。私がリリシアよ。私は貴様を倒すためにこの王宮に戻ってきたのよっ!!貴様だけは…私の手で倒さなくてはいけないのよっ!!」
リリシアがそう言った後、白き王は一本の剣を取り出し、リリシアのほうへと放り投げる。
「剣を取れリリシアよ…その剣はかつて私を封印した忌まわしきメディスと言う者がが使っていた片手剣、神龍剣【白雪】だ。その剣で我を封印して見せよっ!!」
リリシアは白き王が放り投げた剣を取り、慣れない手つきで剣を構える。リリシアが剣を構えた後、白き王は白く輝く剣を構え、戦闘態勢に入る。
「竜族の祖である私の力、貴様の身で思い知るがいいっ!!」
緊迫した空気の中、リリシアと白き王の戦いが幕を開けた……。
お互い一歩譲らぬ状態の中、先手を取ったのは白き王であった。
「フハハハハハハッ!!では私から先に行かせてもらうぞっ!」
剣を構えた白き王が、徐々にリリシアのほうへと迫ってくる。剣の使い方を全く知らない魔姫は、剣を盾にして防御する。
「剣を握ったことは無いけど、負けるわけにはいかないっ!!」
「貴様……剣の使い方は教えてもらっていないようだな。なら私のほうが有利だなぁっ!!」
白く輝く剣から放たれた力強い一閃が、防御するリリシアを大きく吹き飛ばす。リリシアは大きく吹き飛ばされたが、何とか態勢を立て直す。
「ふぅ……さすがに今のは効いたわ…。今度は私の番よっ!!」
リリシアは左手で片手剣を持ち、右手に鉄扇を持って白き王のほうへと向かっていく。
「な…何っ!?左手に神龍剣、右手に鉄扇を構えて双剣にしてしまうとは……来るっ!!」
リリシアの両手から繰り出される斬撃が、白き王に次々と襲い掛かる。白き王は剣を盾にして防御するが、右手に構えた鉄扇の一撃が剣に当たり、白き王が構えた剣を弾き飛ばす。
「私の怒り……思い知るがいいっ!!」
怒りに燃えるリリシアは赤き炎の力を解放し、乱舞の態勢に入る。湧き出る赤き炎の力が体外にまであふれ出し、紫色の髪は逆立ち、その体には猛々しい炎が揺らめいていた。
「な…なんだその力はっ!!どこからそんな力がわいてくるのだぁっ!!」
「知らないなら教えてあげるわ……私の父は赤き炎の使い手、母は人間界の魔導士…。人間と魔族の二つの血を受け継いだ種族、デーモニックハーフだからよっ!!つまり、赤き炎の力を使えて魔導術も使える類まれなる存在よ…。さぁ茶番は終わりよ、遠慮なく行かせてもらうわよっ!!」
手に持った武器に赤き炎の力を込め、リリシアは乱舞を始める。魔姫の手に持った二つの武器がまるで意思を持ったかのように踊り狂い、白き王の体を切り裂いていく。
「貴様は私の処女を奪った上、王座まで奪い民衆たちを苦しめたっ!!だから貴様だけはここで葬り去らなければならないっ!!」
乱舞を続けるリリシアは武器を振るうスピードを上げ、さらに白き王の体を切り裂く。乱舞が最高潮に達した瞬間、リリシアは武器を振り上げ、力を込めて振り下ろす。
「これで全てが終わるっ!!さらばだ、白き王ッ!!」
「フフフ…私が竜族の祖だということを忘れてはいないかね……。」
両手に持った武器が振り下ろされた瞬間、ガキィンッ――という金属音が玉座の間にこだまする。
「そ…そんなバカなっ!!私の最後の一撃が通用しないなんてっ!!」
最高潮の一撃を叩き込んだのにもかかわらず、白き王は平気な顔をしていた。武器が当たる瞬間、白き王の体が龍の皮膚と化し、攻撃を防いでいた。
「フフフ……フハハハハハハハッ!!祖なる者と呼ばれている私を本気にさせたのはメディス以来だ……。気に入ったぞリリシアよ、とことんまで貴様を葬り去りたくなってきたぞっ!!」
その言葉の後、白き王は外へ続く裏口を抜けて外へと出る。白き王を追って外へとやってきたリリシアの目に、巨大な白き龍の姿が映る。
「こ…これが白き王の真の姿なのっ!?」
「そうだ。これが私の真の姿…アンセスター・ドラグーン、すなわち【祖龍】だっ!!この姿に変えたこと…地獄で後悔するがいいっ…リリシアァッ!」
真の姿となった白き王は、目覚めの咆哮を上げてリリシアを威嚇する。すべての竜族の祖とも言われる龍を相手に、リリシアはこの強大な敵を倒すことが出来るのか……!?