第八話 王宮を目指して

 

 五人の戦乙女の一人であるフレイヤを退けたリリシアたちは、休息を取るべく近くにあるフォル・エクリスの街へとたどり着いた。街の武器屋でイレーナとルシーネの武器を買い、宿に向かおうとした瞬間見知らぬ女が突然ディンゴに抱きついてきた。自らをゲルヒルデと名乗るその女は、魔導学校時代のディンゴの先輩に当たる存在でもあり、ブリュンヒルデの妹でもあった。ディンゴにいちゃつくゲルヒルデにリリシアは嫌悪感を露にしていたが、ディンゴの説得により要求を受け入れ、リリシアの旅に同行することになった。

 

 宿で一泊を過ごしたリリシアたちはフォル・エクリスの街を後にし、白き王によって占拠されたルーズ・ケープを目指すべく足を進めていた。リリシアたちがフォル・エクリスを去った頃、エクリス山地へと到着したホワイトシャドウたちは、ヘルハウンドの優れた嗅覚を頼りにリリシアを探していた。

「むむ…ヘルハウンドが地面を嗅ぎまわっている。どうやらこの近くにリリシアがいるようだ。お前ら、この周囲一体をくまなく探せっ!!

ホワイトシャドウたちは四方に分かれてリリシアの捜索に向かっていく。そんな中、ホワイトシャドウの一人が連れているヘルハウンドがフォル・エクリスの方面へと向かって走り出す。

 「うわあああああっ!!たっ、助けてくれえぇっ!!

ヘルハウンドに引きずられているホワイトシャドウは、フォル・エクリスの方面へと走っていく。それを見ていた仲間たちは、急いで後を追う。

「仲間の一人がヘルハウンドに引きずられている……助けに行くぞっ!!

しかし彼らのスピードでは追いつけるわけもなく、どんどん距離を引き離されていく。仲間たちが困惑した表情の中、リーダー格のホワイトシャドウがなにやら詠唱を始める。

「ここは私に任せろっ!!お前らは俺の後について来いっ!シャイン・スピーダー!!

詠唱を終えた瞬間、リーダー格のホワイトシャドウは猛スピードでフォル・エクリスの街の方面へと向かって行ったヘルハウンドの後を追うべく、走り出す。リーダー格のホワイトシャドウが仲間の救出に向かって行った後、仲間たちも急いで後を追う。

 「しかしリーダーがあんな術を持っているとは思わなかったぜ…。私たちも後を追うぞっ!!

ホワイトシャドウたちは仲間の救出に向かったリーダーを追うべく、フォル・エクリスの街へと足を踏み入れた。住民たちが恐れをなす中、ヘルハウンドをつれたホワイトシャドウたちが街の中を闊歩する。

「うわあっ!!ま…魔物だっ!!

「助けてくれぇっ!!

恐れおののく住民たちは、次々とホワイトシャドウたちから離れていく。一方その頃リーダー格のホワイトシャドウは、仲間を引きずっているヘルハウンドに追いつき、仲間の一人を救出する。

「ふぅ…助かったぜ。あいつ、地面を嗅いだ途端に突っ走りやがるからびっくりしたぜ…。」

「無事で何よりだ。ところで、なぜヘルハウンドがお前を引きずっていたのだ?

その言葉を聞いたホワイトシャドウは、その理由を話しはじめた。

 「実は…俺たちがリリシアを探している間、俺のヘルハウンドが地面の臭いを嗅いだ瞬間、突然街の方面へと走り出したんだ。あいつ、どうやらリリシアの臭いを嗅ぎつけ、俺を案内しようとしていたかもしれな……あっ!!

二人が話しをしている間、ヘルハウンドは再び走り出しエステア草原の方面へと向かっていく。走り去っていくヘルハウンドを追うべく、二人は急ぎ足でヘルハウンドを追う。

「ここから先はエステア草原だ。奴が草原方面に走り去ったということは、リリシアがこの近くにいる可能性があるかもしれないからな…。急いで後を追うぞっ!!

エステア草原へと走り去っていったヘルハウンドの後を追うべく、リーダー格のホワイトシャドウたちは急ぎ足で草原へと向かって行った……。

 

 フォル・エクリスの街から歩き続けて数分後、リリシアたちはエクリス山地を抜け、魔界の大きな町であるエステイシアに続くエステア草原へとやってきた。見渡す限り草が広がる大地を踏みしめながら、リリシアたちは王宮を目指す。

「見渡す限り草ばかりね……これじゃあどっちに向かっているのか分からなくなってしまいそうだわ。」

方角を見失いそうなほどの一面草ばかりの草原を、リリシアたちはただまっすぐに進んで行く。しばらく進んでいると、ルシーネが突然立ち止まり、耳をピクリと動かす。

 「リリシア様、後ろから何かが来そうですわ……。はやく戦う準備を!!

尖った耳で物音を聞き取ったルシーネの言葉を聞いたリリシアは、安価な鉄扇を構えて攻撃の態勢に入る。リリシアが鉄扇を構えると同時に、仲間たちが一斉に武器を構える。

「みなさん……援護のほうはお姉さんにまかせなさい♪あっ、そろそろ魔物のお出ましね。」

ゲルヒルデが仲間たちに笑顔でそう言った後、ヘルハウンドがこちらがわに向かって走ってくる。そしてその後ろには、二人のホワイトシャドウが急ぎ足でヘルハウンドの後を追う。

 「グルルルルルルッ!!!

血走った眼でリリシアを睨み付けるヘルハウンドは、牙を剥き出して威嚇する。しかし怯む様子もないリリシアは、鉄扇を振るいヘルハウンドを薙ぎ払う。

「はあっ!!

鉄扇のひと振るいで、ヘルハウンドの足が地面から離れる。空中に飛ばされ、無防備となったヘルハウンドにディンゴのボウガンの弾が突き刺さる。

「よしっ!!ヘルハウンド一匹仕留めたぜっ!!さぁ次はどいつだっ!!

その戦いの様子を見ていたホワイトシャドウたちは、武器を構えて一斉にリリシアたちのもとへと走り出す。

「ヘルハウンドがやられた!!ここは一時撤退だ。」

「ちょっと待てっ!!もう少しで援軍がやってくる……。ここは草むらに隠れ……ぐわあっ!!

草むらに隠れようとしたホワイトシャドウに、ディンゴのボウガンの弾丸が心臓を貫いた。どうやらディンゴのボウガンは、遠隔射撃ができるようスコープが取り付けられていた。

 「へへっ……夜なべしてボウガンを改造した甲斐があったぜ。ほらよっ、もう一発喰らえっ!!

ディンゴはリーダー格のホワイトシャドウに狙いを定め、弾丸を装填し引き金に手を掛ける。突然の奇襲攻撃に、リーダー格のホワイトシャドウは草むらに逃げようとする。

「い…一体何が起こっているんだっ!!見えない何かによってホワイトシャドウの一人が倒されてしまった!!ここは一時撤……おっ、援軍が来たぜ!!

引き金を引こうとした瞬間、リーダー格のホワイトシャドウがその場から離れる。その後を追うと、背後にはヘルハウンドを連れたホワイトシャドウの軍勢がそこにあった。

「やばい、援軍が来やがったかっ!!そうなるとこの弾丸を使うしかあるまい……。」

その様子をみたディンゴは、ボウガンに炸裂弾を装填すると、ホワイトシャドウの軍勢に照準を合わせ引き金を引く。放たれた弾丸は炎の矢となり、軍勢の中心に着弾する。

 「な…何かが地面に突き刺さった気がするのだが、まぁよい…かまわず進むぞ……ぐわあっ!!

地面に突き刺さった炸裂弾が破裂し、轟音と共に大爆発を起こす。その爆風によってホワイトシャドウとヘルハウンドたちは大きく吹き飛ばされる。

「今撃ったのは炸裂弾を改良した炸雷弾だ。こいつは地面に突き刺さった後、爆発する弾だ…。」

「さすがはディンちゃん♪ボウガンの弾を作るのがうまいのね……。しかしまだ安心はできないわ。生き残っている奴らがこちら側に向かっているわよ。」

爆風から逃れたヘルハウンドを引き連れたホワイトシャドウが、じわりじわりとリリシアのもとへと近づいてくる。リリシアに近づいてくるホワイトシャドウを迎え撃つべく、イレーナは弓を構える。

 「私の弓術、受けてみるがいいっ!!

イレーナの弓から放たれた一筋の矢は、ホワイトシャドウの体を貫く。イレーナが奮闘する中、ルシーネは杖に魔力を込め、詠唱を始める。

「炎よ、不浄なる者を焼き尽くさんっ!!ブレイズ・ウェイブ!!

ルシーネが詠唱を終えた瞬間、炎の波がヘルハウンドの群れとホワイトシャドウたちを焼き尽くす。全てを焼き尽くす炎の波が通りすぎたのにも関わらず、リーダー格のホワイトシャドウは守りの結界を張り、なんとか耐え忍んでいた。

「フハハハハハハハッ!!手下どもは倒れたが、リーダー格であるこの私は一味違うぞっ!!手下を倒されたこの恨み、貴様らの命で償ってもらうぞっ!!

その言葉の後、リーダー格のホワイトシャドウは白頭巾を脱ぎ捨て、地面に投げつける。

 「ホワイトシャドウの象徴である白頭巾を脱ぎ捨てたということは、さらに攻撃性の増したホワイトデビルに進化するということね……。みんな、気をつけないと痛い目にあっちゃうわよ…。」

ゲルヒルデの言葉の通り、白頭巾を脱ぎ捨てた瞬間、ホワイトシャドウの体が徐々に凶暴な肉体へと変貌を始め、ホワイトデビルへと進化した。

「噂で聞いたことがある。多くの経験を積んだホワイトシャドウは、体内で進化のためのエネルギーが蓄えられる。その進化エネルギーを制御する役割がこの白頭巾だ。それを外すことにより進化のエネルギーが体内へと流れるという仕組みだ……。みんな、奴を迎え撃つ準備をっ!!

ガルフィスの号令で、全員は戦う準備を始める。リリシアたちが戦闘態勢に入る中、ホワイトデビルは鋭く伸びた爪を突き出し、リリシアたちを威嚇する。

 「小娘どもめ……その爪で串刺しにしてくれるわっ!!

ホワイトデビルの威嚇に動じないリリシアは、冷たい言葉で言い返す。

「低級魔族にこの私を殺せるのかしら……。しかしそうはいきませんわよ。」

リリシアの挑発に怒りを感じたのか、ホワイトデビルは怒りを露にする。

「言ってくれたな小娘めっ……まずはお前から串刺しにしてやるかっ!!

リリシアに挑発され、牙を剥き出して怒りに燃えるホワイトデビルは大きく空中へと飛び上がる。飛び上がると同時に爪を前に突き出し、錐揉み回転をしながら地上にいるリリシアめがけて落下していく。

「奴が空中に飛び上がったわ。ディンゴ、今が攻撃のチャンスよっ!!

リリシアの声を聞いたディンゴは、普通の弾丸より少し重めの鉛弾をボウガンに装填し、上空にいるホワイトデビルに狙いを定める。

 「よし、リリシアのおかげで奴の体に弾丸を命中させられるぜ!!

回転しながら落下するホワイトデビルに狙いを定め、ディンゴはボウガンの引き金を引く。引き金が引かれた瞬間、鉛の弾丸がホワイトデビルの体をを貫き、錐揉み回転の姿勢が解除される。

「うぐっ……!!

ディンゴの放った鉛の弾丸に貫かれ、ホワイトデビルは痛みのあまり空中で蹲る。傷口を押さえた姿勢で地面に落下したホワイトデビルに、ゲルヒルデがさらに追撃を加える。

 「罪深き者に……束縛を与えよっ!!ホーリー・バインドっ!!

詠唱を終えた瞬間、地面に落下したホワイトデビルに聖なる鎖が巻きつき、身動きを封じる。

「よしっ、今ので奴の身動きが封じられた!!奴の体に一発ぶち込んでやるとするかっ!!

聖なる鎖で縛られたホワイトデビルを葬り去るべく、ディンゴは単体を集中攻撃できるスラッグ弾を装填し、ゆっくりとホワイトデビルに近づく。

「スラッグ弾は高威力だが、反動が大きいからな……。ここは確実に相手に当てないと、ゲルヒルデが作ってくれたチャンスを無駄にしてしまうからな…。」

高威力ゆえに破壊力のあるスラッグ弾を確実に当てるため、ディンゴはボウガンを抱えて歩き出す。発射に最適な距離まできた瞬間、ディンゴはボウガンに取り付けられたスコープを覗き込み、照準を合わせる。

 「この距離なら奴の胸にスラッグ弾を当てられそうだ。そろそろぶっ放すとするかっ!!

指に力を込めて引き金を引いた瞬間、小爆発とともにスラッグ弾がホワイトデビルの心臓めがけて放たれる。弾丸を放った反動により、ディンゴは後ろへと吹き飛ばされる。

「うわああぁぁっ!!!

スラッグ弾のすさまじい反動により大きく吹き飛ばされたディンゴのもとに、心配そうな表情でゲルヒルデが駆け寄る。

「ディンちゃん!!大丈夫……。」

「なんとか奴に止めをさしたのだが、スラッグ弾を撃ったせいで俺のヴァイオレットシューターがぶっ壊れてしまったぜ……。さすがにこの弾丸はライトボウガンと相性が……うぐっ!!

「ディンちゃん、今は喋っちゃダメですわ……。とりあえず今は体を休めることに専念しましょう。リリシア様、この近くに川があるようなので、そこでテントを張って休みましょう。」

ゲルヒルデが負傷したディンゴを背負うと、リリシアにそう伝える。

 「そうね……。確かにディンゴが負傷すると、戦力が欠けるわね。とりあえず川に到着したらテントを張って一晩野宿しましょう。」

負傷したディンゴを休ませるため、リリシアたちは川を目指すべく歩き始める。リリシアたちが川に到着した頃には、すでに日が落ちて夕暮れになっていた。

「さて、テントを張ってここで野宿しよう。夜は視界が悪く、いつ魔物が襲ってくるかわからないからな……。」

野宿のためのテントを張り終えた後、ゲルヒルデは負傷したディンゴを床に寝かせると、癒しの術を唱える。

「聖なる光よ……傷つきし者に癒しを…ヒール・ライト!!

詠唱を終えた瞬間、聖なる光がディンゴを包み込む。

 「お…俺の体の痛みが治まっていく……。」

ディンゴの傷が回復したことを確認すると、ゲルヒルデは癒しの魔力の放出を止め、ディンゴに抱きつく。

「ディンちゃーんっ!!無事でよかった♪」

「うわっ……君の癒しの術のおかげで元気がでたぜ!!

癒しの術により元気を取り戻したディンゴが外に出ようとした瞬間、ゲルヒルデが呼び止める。

 「ディンちゃん…あなたの体力を底上げするための薬を作ってあげるから、ちょっと待っててくださいね…♪」

ゲルヒルデは鞄の中から調合セットと調合素材を取り出すと、すぐさま調合の準備をはじめる。数分後、薬草をベースに、滋養強壮の作用のある竜の眼と呼ばれる実を混ぜ合わせた体力の丸薬が出来た。

「ディンちゃん…少し苦いけど、我慢して飲んでちょうだい。はい、お口あけて♪」

先ほど調合で出来た体力の丸薬を手に取ると、それをディンゴの舌の上に乗せる。ディンゴは舌の上に乗せられた体力の丸薬を飲み込むと、体の中から力が湧き出てくる。

 「うおおおっ!!体の底から力が湧き出てくる……やっぱり君は薬の調合が上手いな。」

自らが調合した薬を飲んでくれたディンゴを見たゲルヒルデは、嬉しそうな表情を浮かべる。そんな中、リリシアがテントの中へと入り、ゲルヒルデにそう伝える。

「ゲルヒルデ、これから川で水浴びするけど、あなたも一緒に来てくれるかしら?イレーナとルシーネもあなたが来るのを待っているわよっ!!

「ええ、今から行くわ。ディンちゃん、私はこれからリリシア様たちと近くの川で水浴びに行くから、覗いちゃダ・メ・よっ♪」

軽く指をディンゴの目の前で振った後、ゲルヒルデは水浴びをするために近くの川へと向かって行った。ゲルヒルデがテントを後にした後、ディンゴはスラッグ弾を撃ったせいで壊れてしまったヴァイオレットシューターの修理を始める。

 「さて、俺はボウガンの修理をするか。これくらいの傷なら簡単に修理できそうだな……。」

ディンゴは鞄の中から修理キットを取り出し、ヴァイオレットシューターの修理を始める。修理を終えたその頃、水浴びを終えた女性陣が戻ってくる。

「さて、明日に備えて今日はもう寝るわよ…。」

戦いで疲れた体を癒すため、リリシアたちは明日に備えてテントの中で一晩を過ごすのであった……。

 

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