蘇生の章第二十九話 エルディーナの願い
アメリア殺しの罪により、地獄島へと島流しにされたクリスたちは、地獄島の森の中で遺跡を見つけた。クリスたちが遺跡で見た物は、エルーシュの占拠により闇に包まれてしまったファルゼーレ大陸に続いている転送陣であった。クリスたちの後をつけてきた凶暴な原住生物であるマグマウルフを退け、ファルゼーレ大陸に向かおうとしたそのとき、アメリアの命を受けてクリスたちを連れ戻そうとするレミアポリスの兵士たちが駆けつけてきた。そこにアメリアが現れ、クリスたちを行かせるように兵士たちにそう言うと、兵士たちは納得し、アメリアと共に遺跡を去っていった。クリスたちは決意を固め、ファルゼーレ大陸へと向かうのであった。
打倒エルーシュを胸に、クリスたちは闇に包まれたファルゼーレ大陸の南東にあるエーゼルポリスへ向かうべく、暗闇の大地を歩いていた。
「フィリス様…エーゼルポリスはどこにあるのでしょうか?」
クリスがそう言った瞬間、フィリスは鞄の中からこの大陸の地図を取り出した。しかしこの暗さでは地図が見えず、どこにエーゼルポリスがあるのか分からなかった。
「これじゃあ見えないわ…。ディオン、鞄の中からランプを取ってくれない。」
フィリスの言葉を聞いたディオンは、フィリスの鞄の中からランプを取り出し、火を灯した。クリスたちの周りが、ほんのりと明るくなる。
「ありがとう……。これで地図が見えるわ。」
フィリスは地図を広げ、クリスたちにエーゼルポリスの場所を指差す。酒場のマスターの言うとおり、エーゼルポリスは南東の方角にあった。
「とりあえず南に進めば、いずれエーゼルポリスにたどり着くわね。さぁみんな行きましょう。」
フィリスが地図を鞄の中にしまうと、再び南に向けて歩き始めた。茂みの中から、何者かがクリスたちの様子を見ていた。
「さっきの女騎士のつれている紫の髪の女…耳が尖っていたな。よし、あのエルフらしき人物ををエルディーナ様のところへと連れて行くぞっ!!もしあれがエルーシュ様の言っているリリシアって奴ならばご褒美がもらえるぜ。ケッケッケッ…」
その正体はエルディーナの僕であるダークエルフであった。三人のダークエルフは静かにクリスたちに見つからないよう、静かに後を追っていった。
ダークエルフたちが後をつけて来ているのを知らないクリスたちは、疲れを癒すためしばしの休憩をとっていた。そのころ木の裏に隠れているダークエルフたちは、なにやら話し合っていた。
「今奴らは休憩中だ。奴らをエルフの隠れ里へと連れて行くチャンスだ!!」
「俺が今もっている麻痺蝶の粉で奴らをしびれさせた後、仲間を呼び寄せて隠れ里に持っていこう!」
ダークエルフの一人が麻痺蝶の粉の入った包み紙を取り出し、木の裏にいるクリスたちに向けて吹きかけた。その瞬間、クリスたちの体は痺れ、動けなくなった。
「な…何なのっ!?体の自由がきかないわ!これは一体!?」
いきなり体に違和感を感じたクリスがそう言うと、リリシアは木の裏に誰かいる気配を感じた。どうやら木の裏にいる何者かが麻痺蝶の粉を吹きかけたに違いない。
「この粉は、まさか麻痺蝶の粉…。木の裏にいるのは誰なの!おとなしく出てきなさいっ!!」
リリシアが叫んだ瞬間、木の裏から三人のダークエルフが現れ、クリスたちに近づいてきた。
「よし、今だ!者ども、奴らを隠れ里に連れて行くぞっ!」
ダークエルフの一人の掛け声が響き渡った瞬間、数人のダークエルフが身動きの取れないクリスたちを担ぎ、どこかへと運ぼうとする。
「隠れ兵なんて卑怯すぎますわ!卑しいダークエルフに、この私が殺せるかしら……。」
リリシアが侮蔑の言葉をダークエルフたちに言い放った瞬間、ダークエルフの一人の拳がリリシアの鳩尾を捉えた。
「このエルフめ……なめた口をきくなっ!!」
「がはあっ!!」
腹に拳を喰らったリリシアは、苦痛の表情を浮かべながらその場に倒れた。クリスたちが麻痺して動けなくなったことを確認すると、ダークエルフたちはクリスたちを担ぎ、隠れ里へと向かっていった。
エルフの隠れ里に戻ってきたダークエルフたちは、クリスたちを牢に入れた後、エルディーナにその旨を報告する。紫の髪をした耳の尖った女を捕らえたことを知った聞いたエルディーナは、リリシアだと分かるまでにはそう時間はかからなかった。
「よくぞリリシアを捕まえてくれた…。そのことをエルーシュに報告すれば、魔界王からの賞金を山分けしてもらえるわ…。」
うきうき顔のエルディーナは、ダークエルフたちに牢にいるリリシアを呼び寄せるように命じた。エルディーナの命を受けたダークエルフたちは、一斉にクリスたちが囚われている牢に向かっていった。
体の痺れが抜け、動けるようになったクリスたちは牢に閉じ込められていた。そのとき、エルフの男が現れ、手に持った剣で牢を切り裂く。
「早く……牢を出ろ。エルディーナはリリシアの首を狙っている…。俺は囚われている仲間を救出するから、お前たちはエルディーナを倒せ!」
その男はアドリアシティの宿屋で出会った黒きエルフであるイクシードであった。クリスたちはエルディーナを倒すべく、王の間へと向かっていった。イクシードはエルディーナに捕らえられている仲間を救うべく、地下牢へと走り出した。
一方笑顔のエルディーナの元に、ダークエルフの一人が駆けつけてきた。
「エルディーナ様!とんでもないことが起こってしまいました…。牢に捕らえたはずの紫の髪の女がいません!どうやら脱走したようです。おまけに仲間たちは何者かによって倒されてしまい、残ったのは私だけです!!」
そのことを聞いたエルディーナは、歯をむき出しにして怒りの表情を浮かべる。
「許さぬ…。せっかくの賞金を無駄にしてたまるか…。今すぐにでも血祭りに上げたい気…!?」
エルディーナが突然言葉を止めた。どうやら何者かの気配を感じていた。するう王座の間の扉を開け、クリスたちが中に入ってきた。
「ほう…自ら死にに来たようだな。私が相手になってくれる!!」
エルディーナは杖を構え、クリスたちを威嚇する。するとリリシアが前に出て、エルディーナにそう言う。
「みんな下がってて…。ここは私が行くわ…。」
リリシアはクリスたちを下がらせ、エルディーナのほうへ歩き出した。どうやらリリシアは彼女と戦う気は無いようだ。
「エルディーナ…あなたに聞きたいことがあります。どうして同じ仲間であるエルフを殺すのですか?何か」
「そんなこと…あなたには関係ないわっ!!」
リリシアの言葉にエルディーナは耳を貸さなかった。エルディーナは手に持った杖を振り回し、リリシアを殴りつけた。
「あうっ!!」
エルディーナの杖の一撃により、リリシアはその場に倒れる。しかし、リリシアは再び立ち上がり、エルディーナに説得を始める。
「あなたが心を開くまで…何度でも耐えますわよ。この隠れ里にいるエルフが何をしたというのっ!」
耳を貸さぬエルディーナをよそに、リリシアは再び説得を始めた。それに反応するかのようにエルディーナは杖でリリシアを殴りつける。そのような繰り返しが一時間近く続いた……。
説得を繰り返し、エルディーナに殴られ続けたリリシアだが、ふらふらになりながらも立ちつづけていた。その様子を見ていたエルディーナの心に、何かしらの変化が現れていた。
「どうして……どうして私の為にそこまでするの…!私はあなたの命を奪おうとしたのよ…なのになぜっ!!」
エルディーナの目に、涙が溢れていた。どうやらリリシアはエルディーナが悪い人ではないと見抜いていたのだ。
「あなたは、本当は悪い人ではないはずよ…。私にはそれが分かるの。もしかしたら、七大魔王の一人であるエルーシュに唆されて同じ仲間であるエルフを殺したんじゃないかな…?」
その言葉を聞いたエルディーナは、涙を流しながらクリスたちにそう言った。
「お願い、エルーシュを倒して…。これが私の願いよ…。私の禁呪文で、私が殺してきたエルフをよみがえらせましょう。あなたのおかげで私は目を覚ますことが出来た…。ありがとう、リリシア…。」
エルディーナが禁忌の術を唱えた瞬間、自らの体が消滅し始めた。すると、隠れ里にいたエルディーナに殺されたエルフの魂が呼び戻されていく。
「よかった……。」
――ドサッ…。
その言葉を最後に、リリシアはその場に倒れてしまった。どうやら今までに受けたダメージが蓄積され動けない状態だった。クリスは隠れ里にある宿にリリシアを運び、しばらく休ませることにした。
エルディーナが消えた後、クリスたちのもとに高貴なエルフの女が近づいてきた。
「エルディーナを倒してくださったのはあなたたちですか…。私はエルフの女王、アリアです。まずは傷ついた人を癒して差し上げましょう。」
アリアはリリシアの傷を癒した後、クリスたちにそう言う。クリスは少し頷いた後、アリアに今までのことを話し始めた。
「私たちはエルーシュを倒し、ソウルキューブを取り返すために旅をしているのです。この大陸の南にあるエーゼルポリスを支配し、アンダーグラウンドの封印を解いたという話を聞いたのですが、何か知っていることはありませんか?」
その言葉を聞いたアリアは、クリスたちにこう話した。
「私の知っている限りでは、エーゼルポリスの封印の間にある大穴、アンダーグラウンドの最深部では、強大な闇の力があると聞きます。エルーシュはその封印を解き、超魔王を呼び出そうとしているのです。もし超魔王がこのフェルスティアに呼び出された瞬間、もはやなす術がありません。エルーシュよりも先アンダーグラウンドの最深部に行き、超魔王を葬らなければなりません。あなたたちにならそれが出来ると信じています…。エルディーナとの戦いで疲れているから、今日はここで休んでください。」
アリアが宿を去った後、クリスたちは疲れを癒すため、一晩をすごすのであった。エルディーナの願いに答えるためにも、エルーシュを倒し超魔王の復活を阻止しなくてはならないのだ…。
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